リテンション成功の秘訣|人事採用担当者のための定着率向上術
2025.09.22

「採用してもすぐに辞めてしまう」
「優秀な人材が定着しない」
「離職率が高く、常に人手不足の状態」
こんなお悩みはありませんか?
これらの課題を解決する鍵として近年注目されているものにリテンションがあります。
この記事では、人事採用担当者が知っておくべきリテンションの基本から、具体的な施策、さらには離職リスクの高い社員を早期に発見する方法まで、幅広く解説します。
リテンションとは?
リテンション(Retention)とは、英語で「維持」や「保持」を意味する言葉です。
人事領域においては「人材の維持・確保・定着」を意味し、企業が従業員を自社に留まらせるためのあらゆる取り組みを指します。
具体的な取り組みには、働きやすい環境づくりや公正な評価制度、キャリアパスの提示などが含まれます。
なぜ今、リテンションが重要視されるのか
現代のビジネス環境において、リテンションは単なる人事課題ではなく、企業の存続を左右する重要な経営戦略となりつつあります。
その背景には、以下のような要因があります。
- 少子高齢化による人材不足
- 人材の流動化によるノウハウ・技術の流出
それぞれについて下記で解説します。
少子高齢化による人材不足
現代の日本では少子高齢化により、労働人口の減少が深刻な問題になっています。
労働人口減少による人材不足が慢性化することで、企業は自社に必要な人材を確保することが難しくなっています。
人材確保が難しい状況のなか、採用・育成した人材がすぐに離職すれば、人材不足はさらに深刻になってしまいます。
慢性的な人手不足は、残された従業員の業務負担を増大させ、モチベーションや生産性の低下を招きます。
さらに離職者が多い職場では、新しいメンバーが馴染みにくく、チームワークの醸成が困難になるため、組織全体のパフォーマンスが低下する恐れがあります。
人材の流動化によるノウハウ・技術の流出
新卒一括採用や終身雇用制度が一般的だった時代は「人材を組織に定着させる」ということを特別意識する必要はありませんでした。
しかし、労働環境が大きく変化し、雇用が将来的に保障されるかどうかが不明瞭な時代において、人材の流動化は加速しています。
また近年、働き方や価値観の多様化によって、転職が珍しいことではなくなりました。
従業員は業務を遂行するなかで自社が持つ技術やノウハウを習得していきます。
転職市場が活発化し、優秀な人材が流出すれば、その人が持つ知識やスキル、経験も失われることになります。
リテンション施策を導入する3つのメリット

リテンション施策は、企業に多くの恩恵をもたらします。
以下に、特に重要な3つのメリットを紹介します。
- 採用・育成コストの引き下げ
- 知識・ノウハウの流出の防止
- 従業員のモチベーションアップ・生産性の向上
それぞれについて下記で解説します。
採用・育成コストの引き下げ
退職者が出れば、新しい人材を採用する必要があります、
従業員の定着率が上がれば、新たな人材を採用する手間やコストが削減できます。
また、新人教育にかかる時間や育成コストも抑えることができます。
知識・ノウハウの流出の防止
従業員が長期的に活躍すれば、彼らが持つ貴重な知識やスキル、ノウハウが社内に蓄積され、組織全体の財産となります。
また、リテンションによって従業員が定着すれば、これらの知識やスキル、ノウハウの流出を防止できます。
従業員のモチベーションアップ・生産性の向上
リテンションによって従業員が長く活躍することで、蓄積されたノウハウやスキルが活かされるため、組織全体の生産性が向上します。
また、リテンションは従業員を大切にする想う気持ちの表れであり、魅力的な職場づくりにもつながります。
そのため、従業員が働きやすくなり、エンゲージメントやモチベーションを高めやすくなります。
モチベーションやエンゲージメントの高い従業員は主体的に業務に取り組むようになります。
これにより、イノベーションが生まれやすく、生産性向上や企業の持続的な成長につながります。
リテンション施策の2つの種類
リテンション施策は、主に金銭的報酬と非金銭的報酬の2つに大別できます。
それぞれについて下記で解説します。
金銭的報酬
金銭的報酬とは直接的に金銭で報いるものです。例えば以下のような施策が挙げられます。
- 人材の能力や実績に適した給与
- ストップオプション
- 透明性が高く公平な評価制度、賞与(ボーナス)、インセンティブ
- 手当や制度などの福利厚生 など
社員の努力や成果を正当に評価し、それを金銭的に反映させることで、モチベーションを高める効果が期待できます。
また、福利厚生の充実により、働きやすさを高めることができれば、定着率向上が期待できます。
非金銭的報酬
非金銭的報酬はその名のとおり、金銭以外の側面から従業員に価値を提供するものです。
具体的には以下のような施策が挙げられます。
- スキルアップ・キャリア形成のサポート
- 心理的安全性の確保
- 働きやすい職場環境の構築
- ワークライフバランスの実現
- 社内コミュニケーションの活性化 など
個々の働きがいや成長を促し、企業への帰属意識を強める効果が期待できます。
人事採用担当者が取り組むべきリテンション施策
金銭的報酬は一定の効果が見込めますが、取り組みには限界があります。
そのため、非金銭的報酬を充実させ、両者をバランスよく取り入れることが重要になります。
ここでは、人事採用担当者が特に注力すべき施策を具体的に紹介します。
アンケートや従業員満足度調査(ES調査)の実施
まずは自社の現状を正確に把握することが何より重要です。
現状の課題を把握するためには従業員満足度調査(ES調査)やエンゲージメントサーベイを定期的に実施するというのも有効です。
従業員満足度調査とは、アンケートやインタビューを通じて従業員の仕事や人間関係、労働環境や福利厚生についてどの程度満足しているかを調査し、組織の課題を明確にするものです。
なお、従業員満足度調査はES調査やESサーベイとも呼ばれ、ESは従業員満足度「Employee Satisfaction」の頭文字をとったものになります。
一方、エンゲージメントサーベイは従業員がどれだけ積極的に企業活動に参画しているかという度合についてアンケートなどを通じて定量的に調査するものです。
自社の現状を正確に把握することで、自社の問題を細分化でき、離職につながる原因の特定やそれぞれの課題を解消するために真に必要な施策を決定できます。
キャリア支援やスキルアップの取り組み
従業員は自社で働くことにより自分自身も成長することを望んでいます。
そのため、社員一人ひとりのキャリアプランを尊重し、支援することは重要です。
例えば以下のような施策が有効です。
キャリア支援 | メンター制度 チャレンジ制度 ジョブローテーション 社内FA制度 キャリア面談 |
スキルアップ | 資格取得の支援 研修の実施 |
透明性が高く公平な評価制度とキャリアパスの明確化
公平な評価制度とキャリアパスを明確化することも重要です。
「何をすれば評価されるのか」について従業員が理解しやすく、透明性が高く、公平な評価制度を構築します。
自分の能力や実績が正当に評価されているかが明確であれば、仕事のモチベーション向上につながります。
さらに、従業員が自分を客観視できるため、何をどうすれば評価されるかがわかりやすく、スキルアップにつながります。
また、将来的にどのようなキャリアを築けるのかを明確に示すことで、目標を持って働くことができます。
ワークライフバランスの実現

ワークライフバランスの実現など、労働環境の整備も重要な施策のひとつです。
具体的には、フレックスタイム制やリモートワーク、有給休暇の取得促進など、多様な働き方を許容する制度を整備します。
また、労働時間の見直しを行い、適切な労働時間に整備することも重要です。
これにより、従業員の私生活と仕事の両立をサポートし、エンゲージメントを高めます。
心理的安全性と働きやすい職場環境の構築
心理的安全性とは組織内で自分の意見や考えを安心して発言・行動できる状態のことです。
例えば、多くのメンバーが賛成の意見を示している状況下において反対意見を述べられる状態や、わからないことを素直に聞くことができる状態であることをいいます。
心理的安全性の実現のためには、メンバー間の信頼関係や企業風土が大きく影響します。
具体的には以下のような施策が有効です。
- ハラスメント研修の実施
- 部署間のコミュニケーションを促進するイベント開催
- 上司の傾聴スキルの向上
- 対話重視のマネジメント など
社内コミュニケーションの活性化
社内コミュニケーションを活性化することは離職を防ぐ需要な要素です。
具体的には以下のような施策が挙げられます。
- 社内SNSの運用
- 社内報の発効
- 1on1ミーティング
- フリーアドレス制の導入
- ランチ会の開催
- 忘年会や新年会などの補助
- チームビルディングイベントの開催
- 社内チャットツール導入
- タウンホールミーティング
- リラクゼーションプログラムの導入 など
部署や役職を超えた交流の機会を創出し、従業員同士のつながりを深めることで、帰属意識を高める効果が期待できます。
一方、これまでコミュニケーションが活発だったにも関わらず、発言が少なくなった、行動が消極的になったという従業員がいる場合は、その背景や理由に注意しましょう。
もしかすると、職場に対して何らかの不満や不安を抱えているかもしれません。
もし社内コミュニケーションがとれていなければ、このような従業員の変化に気づくこともできません。
従業員のちょっとした変化に気づくためにも、コミュニケーションを活性化することは重要になります。
企業のビジョンやパーパスを共有する
社員一人ひとりが「何のために働いているのか」を理解できるよう、企業のビジョンやパーパスを繰り返し共有することも重要です。
企業のビジョンやパーパスにつながる現状の良い動きを、従業員ひとり一人の仕事のなかから抽出し、賞賛します。
自分の仕事が社会や企業にどのような貢献をしているかを実感することで、モチベーション向上につながります。
称賛文化を醸成する

賞賛文化とは、組織のなかで個人の仕事や成果、ちょっとした工夫を認め合い、感謝や賞賛を伝える文化のことです。
賞賛文化を醸成することで、従業員のモチベーション向上や良好なチームワーク、離職率の低下につながります。
また、心理的安全性が高まるため、従業員間のコミュニケーションが活性化し、イノベーションが生まれやすくなるといったメリットもあります。
具体的な手法としてはサンクスカードの導入や全社での表彰制度などが効果的です。
ただし、「結果】だけで判断してしまうと、職種や従業員間の公平性が保てなくなります。
どのような結果も、それを可能にした努力がなければ成り立ちません。
例えば、「売上達成」は、綿密な資料作りや顧客との関係づくりなどがあってこそ成り立つものです。
結果や定量的な部分だけでなく、プロセスや定性的な部分にも目を向けることが重要です。
定期的なストレスチェック
社員のメンタルヘルスを把握し、早期に不調のサインに気づくためのストレスチェックを定期的に実施することも重要です。
また、残業が慢性的に続いている、残業時間が多いという場合や、ストレスチェックでストレスが高いと認められた従業員も注意が必要です。
このような場合、必要に応じて産業医や専門家と連携し、カウンセリング窓口を設置したり、面談の機会を設けたりといった取り組みが重要です。
リテンション施策は採用前から行う

リテンションを成功させるには、従業員の入社前から退職後まで、一貫した取り組みが重要です。
株式会社マイナビが20代~50代の正社員のうち、2023年6月以降1年間に転職活動を行った1,600名を対象に転職活動における行動特性調査を行いました。
それによると、転職者の5人に1人は前職を勤続1年未満で転職しているという結果でした。
リテンションは従業員を企業に留める施策であり、ある程度勤務期間が長い人を対象にした施策です。
しかし、転職者の5人に1人は就職して一年未満で前職を退職していることから、リテンション施策は採用前から一貫して取り組む必要があることがわかります。
参考≫≫マイナビキャリアリサーチLab「転職活動における行動特性調査 2024年版
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240926_86171/」※1
採用方法・採用基準の見直し
入社後のリテンション施策は大切ですが、そもそも採用段階でミスマッチをなくしておくことが重要です。
入社後のミスマッチを防ぐためにも、今一度採用方法や基準を見直しましょう。
自社の風土やビジョンに合った人材を採用することは、定着率向上の第一歩です。
採用基準の作り方については下記の記事を参考にしてください。
関連記事≫≫
採用基準の作り方と活用術|ミスマッチを防ぐ設定項目と見極め方
RJP理論の実施
「RJP(Realistic Job Preview)理論」とは、採用活動において、良い面だけでなく、大変な面も正直に伝えることで、入社後のギャップを減らし、定着率を高める手法です。
早期離職の原因のひとつに入社後の理想と現実のギャップがあります。
採用活動のなかで良い部分だけでなく、悪い部分も候補者に伝え、納得してもらったうえで入社してもらうことが重要です。
RJP理論については下記記事を参考にしてください。
関連記事≫≫
RJP理論とは?導入メリットと採用ミスマッチを防止するためのポイント
オンボーディングの強化
オンボーディングとは、新入社員がいち早く組織に馴染み、即戦力となるための施策をいいます。
具体的には、オリエンテーションや研修の実施、OJT(On-the-Job Training)、メンター制度でのきめ細やかなサポートが挙げられます。
オンボーディングについては下記記事を参考にしてください。
関連記事≫≫
オンボーディングとは?ビジネスでの意味と効果的に行うポイント
リテンション施策の手順

リテンション施策は、闇雲に導入しても効果は期待できません。以下の3つのステップで、計画的に進めましょう。
- 自社の離職率や離職理由の現状把握
- 具体的な施策の検討
- 効果検証
それぞれについて下記で解説します。
自社の離職率や離職理由の現状把握
まずは、自社の離職率がどのくらいなのか、そしてなぜ社員が辞めてしまうのかを分析します。
具体的には実際の離職率を算出し、退職者へのヒアリング、従業員アンケートを活用し、具体的な課題を洗い出しましょう。
一般的な離職率は下記の計算式で算出されることが多いです
一定期間に退職した人数÷起算日の在籍人数
ただし、業界者職種によっても基準が異なりますので、一概に離職率がどのくらいなら高い、低いとは言えません。
具体的な施策の検討
次に洗い出した課題を解決するために、目標と、それに向けてどのような施策が有効かを検討します。
例えば、アンケートで「待遇面に不満はない」がないという結果が出たとします。
一方、退職理由が「キャリアアップ(スキルアップ)したいから」、不満な点が「キャリアアップ(スキルアップ)の機会がない」とします。
この場合、リテンション施策としてはキャリア支援やスキルアップが有効ではないかと考えられます。
一方、自社の現状を正確に把握せず、適当に施策を行うと、期待した結果が出ないばかりか、逆効果になる恐れもあります。
例えば、自社の現状を把握することなく、「他社もやっているから」などの理由で、ワークライフバランスの実現を図っても意味がないばかりか、優秀な人材の離職が増える可能性もあります。
他社の事例を参考にするのは良いですが、あくまで参考程度と捉え、自社の現状に合った施策を考えることが重要です。
効果検証
リテンション施策を導入したら、その効果を定期的に検証します。
離職率の変化や従業員サーベイの結果などを指標に、PDCAサイクルを回していくことが重要です。
どのような施策でも導入当初は満足度が上がるかもしれません。その一方、現状に満足している人材は不満を感じるかもしれません。
しかし、どのような環境であっても人は慣れるものです。
一年も経てば効果は薄まりますし、不満を感じていた人材も慣れてくるものです。
持続可能な施策を行うためにも、少なくとも一年は継続し、効果を検証しましょう。
リテンション施策として離職しそうな社員を把握する方法

リテンション施策において、離職リスクの高い社員を早期に発見することも非常に重要です。
手遅れになる前に適切なケアを行いましょう。
具体的な方法には以下のようなものがあります。
- コミュニケーションの頻度を確認する
- 勤怠状況やストレスチェックを確認する
- 手遅れになる前に従業員の話をじっくりと聴く
- 過去の離職者との類似点を探す
それぞれについて下記で解説します。
コミュニケーションの頻度を確認する
日頃、部下の最も近くにいる上司が従業員の変化に気づき、早期に対応することは非常に重要です。
例えば、これまで活発にコミュニケーションを取っていた社員に以下のような変化があれば、モチベーションの低下やメンタルの悪化などのサインである可能性があります。
- 会議などで口数が少なくなる
- 愚痴や不満などのネガティブ発言が多くなる
- 挨拶がなくなる
- 表情が暗い
- ひとりで行動するようになる など
勤怠状況やストレスチェックを確認する
勤怠状況やストレスチェックから従業員の状態を把握することもできます。
例えば、遅刻や欠勤が増えたり、残業時間が極端に減ったり(逆に急に増えたり)していないかを確認します。
勤怠状況の変化は、メンタルヘルスの不調や仕事への意欲低下のサインの可能性があるためです。
また、ストレスチェックで高ストレスと認められた従業員についても変わった様子がないかをチェックします。
手遅れになる前に従業員の話をじっくりと話を聴く
従業員の変化に気づいたら、1on1ミーティングでじっくりと話をする機会を設けましょう。
仕事の悩みだけでなく、プライベートなことにも耳を傾けることで、信頼関係を築き、本音を引き出せることがあります。
過去の離職者との類似点を探す
過去に退職した社員と行動パターンや態度、発言に似た点がないかを探すことも有効です。
過去のデータを分析することで、離職予備軍を予測するヒントが得られる場合があります。
例えば、「この部署は退職者が多い」「このポジションは退職者が多い」など、退職者の傾向がつかめるかもしれません。
傾向がつかめたら問題点を抽出し、次の離職者が出ないうちに職場環境や組織の風土を整えるなどの施策を行うことが大切です。
まとめ
人手不足が深刻化する現代において、リテンションは企業が持続的に成長するための不可欠な要素です。
ぜひ、自社の現状を把握し、一歩ずつリテンション施策を進めてみてください。
従業員の離職を防ぎ、定着させるためは採用段階から一貫して施策を行うことが大切です。
まずは採用基準や採用方法を見直し、採用ミスマッチを防ぐことが大切です。
もっとも、候補者の情報を正確に把握できていなければ、ここでご紹介した施策は意味を成さなくなります。
採用を行う際はバックグラウンドチェックやリファレンスチェックなどの客観的評価を活用し、情報精度を高めておくことをおすすめします。
※1マイナビキャリアリサーチLab「転職活動における行動特性調査 2024年版」