採用面接の問題のひとつに「面接官による評価のばらつき」があります。
一般的な面接だと、面接官の主観や技量によって候補者の評価が左右される傾向があります。
その結果、採用してはいけない人材を採ってしまったり、採用すべき人材を逃してしまうことがあります。
面接官による評価のばらつきをなくし、判断基準や評価基準を標準化した面接手法が構造化面接です。
この記事を読むことで以下のことがわかります。
- 構造化面接とは何か
- 構造化面接を導入するメリット・デメリット
- 構造化面接の質問例
- 構造化面接の手順
- 構造化面接の注意点
構造化面接とは
構造化面接とは、自社の採用基準や評価基準を明確に定義したあと、基準に沿った質問を事前に作成し、手順通りに面接を行う手法です。
質問項目や順番、評価基準があらかじめ決まっているため、採用面接の属人化を防ぐことにつながります。
構造化面接が注目される背景
構造化面接はGoogle社が導入したことがきっかけで広まったと言われています。
一般的な採用面接と比較して、構造化面接は候補者のパフォーマンスの予見性が高いというデータも出ています。
近年、少子高齢化による労働力不足から、既存の労働力を高める取り組みが企業活動において必要不可欠になっています。
採用活動では、パフォーマンスが高いと予想される候補者を採用することが非常に重要です。
一方、コンプライアンスの順守や中立・公平な対応が求められる昨今、タブーな質問を候補者にする企業は悪印象を持たれる恐れがあります。
構造化面接は候補者全員に同じ質問をするため、公平さを担保できますし、高パフォーマンスを期待できる候補者を見極めることにつながります。
参考:Google re:work「構造化面接を実施する(https://rework.withgoogle.com/jp/guides/hiring-use-structured-interviewing#introduction)」※1
非構造化面接・半構造化面接との違い
非構造化面接は面接官が候補者に自由に質問を投げかける採用面接手法です。よくある一般的な採用面接手法をイメージすると理解しやすいでしょう。
非構造化面接は採用基準や質問項目などのルールもなく、面接官と候補者の会話のなかで自由にやり取りできます。
面接官の技量によっては、候補者の本音や素の一面を引き出せる場合もあります。
一方、面接官の技量や経験によって結果が左右されるため、同じ質問項目であっても面接官によって評価が変わることがあり、採用ミスマッチが生じる恐れがあります。
半構造化面接は決まった質問を順番通りに質問したあと、面接官が自由に候補者に質問を行う手法です。構造化面接の部分と非構造化面接の部分の両方があることが特徴です。
決まった質問のあと、面接官が自由に質問をするため、面接官の主観によって評価が変わる恐れがあります。
また、面接官の技量によっては話が脱線した際に軌道修正ができなくなるなどの問題が生じる恐れがあります。
構造化面接を導入するメリット
構造化面接を導入するメリットは主に以下の4つです。
- 採用のミスマッチを防ぐことができる
- 評価基準のブレを防げる
- 採用面接の効率化
- オンライン面接でも評価しやすい
それぞれについて下記で解説します。
採用のミスマッチを防ぐことができる
構造化面接では自社が求める人物像に沿った評価基準を定めています。
非構造化面接では面接官の主観によって評価が変わるという課題があります。
面接では事前情報や第一印象などによってバイアスが働いてしまいます。そのため、候補者の評価に公平性が乏しくなり、ミスマッチを招く恐れがあります。
構造化面接は評価基準が統一されているため、バイアスに左右されにくくなります。
また、質問の重複や抜け漏れがなくなるため、自社が求める人材を獲得しやすくなります。
評価基準のブレを防げる
構造化面接は面接官の間で質問項目・評価項目・評価方法が統一されています。
非構造化面接では、候補者に何を聞くか、どう判断するかは面接官によって異なるため、評価にブレが生じます。
構造化面接なら、質問する内容から順番、評価方法まで統一しているため、評価のブレを抑制できます。
採用面接の効率化を図ることができる
構造化面接は採用面接の効率化に有効です。
非構造化面接の場合、面接官によって質問が多くなったり、ひとつの質問で盛り上がったりしてしまい、時間内に終わらせることが難しいケースもあります。
構造化面接であれば、質問項目や質問する順番があらかじめ決まっているため、効率よく面接を進めることができます。
また、面接の結果を定量的に分析しやすいというのも構造化面接の特徴です。
分析した結果をデータ化し、今後の採用活動に活かすことで採用活動の改善につなげることができます。
オンライン面接でも評価しやすい
コロナ禍をきっかけにオンライン面接が普及しました。
構造化面接では事前に決められた項目を決まった手順で質問するため、オンラインでもスムーズに面接を進められます。
画面越しであっても、評価基準が統一されているため、評価のばらつきが少なくなります。
構造化面接を導入するデメリット
構造化面接を導入するデメリットとしては以下のようなものがあります。
- 機械的で冷たい印象を与える恐れがある
- 質問への回答が偏る傾向がある
- 質問が漏洩しやすい
- 工数がかかる
それぞれについて下記で解説します。
機械的で冷たい印象を与える恐れがある
構造化面接は質問や手順がマニュアル化されています。
そのため、候補者に機械的で冷たい印象を与えたり、イメージダウンにつながる恐れがあります。なかには威圧的に感じてしまう候補者もいるかもしれません。
機械的で冷たい雰囲気だと候補者がリラックスして発言することが難しくなります。
面接前にアイスブレイクの時間を設けたり、柔らかい表情をこころがけるなど、候補者がリラックスして答えられるような工夫が重要です。
候補者の個性や新たな一面を引き出しにくい
全ての候補者に同一の質問を投げかけるため、候補者の個性や新たな一面を引き出しにくい傾向があります。
特に創造性や独自の感性が必要な職種の採用では足枷になる恐れがあります。
質問が漏洩しやすい
構造化面接は全ての候補者に統一した質問を投げかけます。そのため、質問項目が口コミやSNSによって外部に漏洩する恐れがあります。
同じ会社を志望する人が事前に質問項目を把握して準備を行うと公平な採用判断ができなくなります。
工数がかかる
構造化面接を導入するためには募集職種・ポジションごとに採用基準を設定し、質問項目や手順を考えなければならず、担当者の負担が大きくなります。
また、正しく質問・評価を行うために面接官全員にトレーニングを行う必要があります。
前述のとおり、構造化面接の質問は漏洩しやすいため、定期的な見直しも必要です。
構造化面接は導入前だけでなく導入後も担当者の負担が大きく、工数がかかることを覚悟しておきましょう。
構造化面接の質問例
Googleが採用している構造化面接では行動面と状況面の2つの質問を組み合わせて判断します。
それぞれについて質問例をご紹介します。
行動面の質問例
行動面に関する質問とは、候補者の過去の行動を掘り下げる質問を投げかけ、候補者のパーソナリティや能力を見極めます。
ポイントは起点となる質問についてSTAR法を使って掘り下げることです。
STAR法とは、当時の状況(Situation)、当時の課題(Task)、どのような行動をとったか(Action)、得られた成果(Result)について掘り下げる質問手法です。
行動面の質問例としては以下のようなものがあります。
状況(Situation)
- 当時のチーム体制について教えてください
- どのような組織で、どのようなチーム体制でしたか
- どのような責任や権限を持っていましたか
- チームのなかであなたの役割は何でしたか
課題(Task)
- どのような業務目標を掲げていましたか
- そのときの目標はどのようなものでしたか
- なぜその目標を立てたのですか
- 課題のきっかけはなんでしたか
- なぜ課題に気づきましたか
- いつまでに解決する必要がありましたか
行動(Action)
- 課題解決のためにどのような計画を立てましたか
- 目標を達成するためにどのように行動しましたか
- 課題をどのように解決しましたか
- チーム内外をどのように巻き込みましたか
成果(Result)
- 課題はこれだけで解決しましたか
- 計画どおりに行かなかったことは何ですか
- 周囲の反応はどうでしたか
- それによってどのような成果を得ましたか
- 今振り返ってみて改善点はありますか
「過去にミスをした出来事と、どのように対処したかを教えてください」のように、課題と行動など2つの要素を含めた質問でも問題ありません。
新卒採用の場合は以下のように応用できます。
- Situation(状況):あなたが学生時代に頑張ったことを教えてください
- Task(課題):当時、どのような課題があると考えましたか
- Action(行動):課題に対し、具体的にどのような行動を起こしましたか
- Result(結果):それによってどのような成果を出しましたか
状況面の質問例
状況面の質問は、「例えば、あなたが〇〇だったらどうしますか」というように面接官が仮設を立て、それに沿った質問を投げかけます。
架空の状況に対して、候補者にどのように行動するかを回答してもらいます。
具体的なエピソードではなく、仮設をもとに質問するため、新卒・中途採用問わず使え、候補者の能力を客観的に評価しやすくなります。
- 顧客から謂れのないクレームを受けたとき、とのように対応しますか
- これまでに経験のない仕事を頼まれたとき、どのような行動をとりますか
- 他の社員が起こしたミスであなたが注意を受けたらどうしますか
- 所属部署のマネージャーになったら、チームをまとめるためにどのような取り組みをしますか
- 打ち合わせで同僚と意見が対立したらどのように対処しますか など
構造化面接の手順ー導入から合否判定までー
構造化面接の導入から合否判定までの手順は以下のとおりです。
- 採用基準を明確にして評価項目・評価基準を設定する
- 起点となる質問を行う
- 質問を掘り下げる
- 評価基準に従い合否を判定する
それぞれ順を追って説明します。
採用基準を明確にして評価項目・評価基準を設定する
まずは募集職種・ポジションごとに自社が必要とする人物像を明確にします。このとき、採用担当者だけでなく、経営層や現場にもヒアリングを行い、掘り下げていきましょう。
このとき、就活・転職市場のトレンドなども分析し、トレンドから乖離しすぎないことも重要です。
採用基準を定義したら、評価項目や評価基準を定めます。
評価項目は以下の3つにわけて設定し、各項目に優先順位をつけましょう。また、面接評価シートを作成し、評価基準を一覧表にしておくと良いでしょう。
- スキル・経験
- 価値観・人柄
- コンピテンシー
起点となる質問を行う
評価項目ごとに起点となる質問を決めます。面接では評価の起点となる質問から質問を始めます。
このとき、候補者が課題に直面した際、何を考え、どのような行動をとるのかについて、具体的なエピソードを引き出すことが重要です。
質問の例としては以下のようなものがあります。
- 問題解決力:これまでの業務のなかで最も困難だった内容はどのようなものですか
- 主体性:これまでの業務のなかで自発的に行動した経験を教えてください
- 計画性:あなたが計画したことにより成果を収めた経験を教えてください
質問を掘り下げる
起点となる質問の回答を掘り下げるため、フォローアップの質問を行います。
このとき、前述のSTAR法を用いて質問するのがポイントです。
前項に挙げた質問の場合、例えば以下のような質問で掘り下げます。
- 問題解決力:どのようにしてその問題を乗り越えましたか
- 主体性:そのような行動に至った理由を教えてください
- 計画性:どうして〇〇という計画を立てたのですか
評価基準に従い合否を判定する
面接が終わったら、質問への回答と評価基準を照合し、候補者の合否を判定します。
このとき、1~5の5段階で表す定量評価を用いると合否判定を行いやすくなります。
なお、構造化面接では評価基準に設定していない項目は評価対象にしてはいけません。評価基準に則って判断しましょう。
構造化面接を実施する際の注意点
構造化面接を実施する際は以下の点に注意しましょう。
- 柔軟に対応する
- 想定質問や誘導質問を避ける
- バックグラウンドチェックと組み合わせる
それぞれについて下記で詳しく解説します。
柔軟に対応する
構造化面接は面接官の評価のばらつきを抑え、候補者の能力を公平に評価する手法です
しかし、どれだけ公平な評価を心がけていても、面接官の主観や技量を完全に排除することはできません。
また、構造化面接だけで採用が進むと、候補者が「マニュアル通りの仕事しかできない会社」「裁量が与えられない職場」と思う可能性もあります。
途中で「この人は優秀だ。ぜひ採用したい」と判断したのであれば、別のアプローチに切り替えるほうが効率的なケースもあります。
構造化面接はあくまで採用手段のひとつです。ほかの手法も組み合わせ、多角的な視点で評価するほうが良いでしょう。
適性検査やバックグラウンドチェック、リファレンスチェックといった客観的指標も併用しながら評価すると採用精度向上につながります。
想定質問や誘導質問を避ける
想定質問とは、候補者が事前に回答を準備できる質問のことです。
通常、候補者はある程度聞かれることを想定して回答を準備しています。
入念に準備することは悪いことではありませんが、回答が取り繕ったものになりがちなため、公平に判断することが難しくなります。
一方、誘導質問は、企業側がどのような回答を期待しているのかが相手に伝わってしまう質問のことです。
例えば「転勤は可能ですか」と聞けば、「転勤できます」と回答したほうが評価が高くなることは想定できます。
ほかにも「弊社は第一志望ですか」「残業が多くても平気ですか」なども誘導質問と言えます。
誘導質問は会社の都合に合わせられるかどうかを聞く質問です。候補者の特性を見極めるものではありません。
構造化面接を行う際は想定質問や誘導質問になっていないかを確認しましょう。
バックグラウンドチェックと組み合わせる
構造化面接は採用ミスマッチを防ぐ方法として有効な手法のひとつですが、絶対的な評価方法ではありません。
また、候補者がスキルや経歴を詐称していた場合、構造化面接では見抜くことができません。
候補者を正しく見極めるためにも、適性検査やバックグラウンドチェック、リファレンスチェックなどのツールを併用し、多角的に評価することをおすすめします。
まとめ
構造化面接は面接官による評価のずれや採用ミスマッチを防ぐのに有効な手法です。
一方、候補者の個性を引き出しにくい、工数がかかる、冷たい印象を与えかねないなどの課題もあります。
構造化面接であっても候補者の話している内容の真偽はわかりません。
バックグラウンドチェックやリファレンスチェックと組み合わせ、客観的な情報を踏まえて候補者を見極めることが重要です。
※1 Google re:work「構造化面接を実施する」