スクラム採用とは?メリットとデメリット、成功させるためのポイント
2024.09.19
スクラム採用とは近年注目されている採用手法です。
人事・採用部門だけでなく、現場の従業員も巻き込み、全社一丸となって採用活動を進める手法です。
現場のニーズと合致した人材を確保しやすいため、採用ミスマッチを防止できるとして注目されています。
この記事を最後まで読むことで以下のことがわかります。
- スクラム採用とは何か
- スクラム採用とリファラル採用の違い
- スクラム採用のメリット・デメリット
- スクラム採用の導入手順
- スクラム採用を成功させるポイント
スクラム採用とは
スクラム採用とは株式会社HERPが提唱した概念で、人事・採用担当者だけでなく、経営陣や現場の従業員も巻き込んだ形で採用活動を行う手法です。
スクラム採用のスクラム(scrum)は、ラグビーでメンバーが肩を組み合うプレーが語源です。
これが転じて、スクラム採用は、採用目標達成のために全社員が一致団結して採用活動に取り組むことを言います。
スクラム採用とリファラル採用の違い
リファラル採用も昨今注目の採用手法です。
リファラル採用は従業員の知人や友人を紹介してもらい、採用を行う手法です。
人事・採用担当者以外の従業員を巻き込んで行うという意味ではリファラル採用もスクラム採用のひとつと言えます。
スクラム採用のメリット
スクラム採用を行うメリットには以下のようなものがあります。
- 採用力の向上とミスマッチ防止
- 優秀な人材とより多く出会える
- 人事・採用担当者の負担減
- 従業員の帰属意識やエンゲージメント・育成力の向上
- オンボーディングがスムーズになる
それぞれについて以下で解説します。
採用力の向上とミスマッチ防止
人事・採用担当者のみで実施する採用活動では、現場がどのような人材を求めているのかを正確に把握するのは困難です。
面接手法の改善や広報活動、会社説明会の実施など、人事・採用担当者側も工夫を凝らしていますが、限界があります。
求職者側から見ても、人事・採用担当者の説明だけで業務内容や企業の実情をくみ取ることは困難です。
一方、現場の従業員の口から出る言葉にはリアリティや具体性があります。
カジュアル面談や会社説明会を実施する際、現場の従業員に説明させることで、求職者が業務内容や求められるスキル、職場の雰囲気を把握しやすくなります。
優秀な人材とより多く出会える
近年、転職サイトへの掲載やエージェント経由の紹介のほか、リファラル採用、SNS採用、アルムナイ採用など採用手法が多様化しています。
スクラム採用で採用活動に関わる人数が増えれば、様々なチャネルから候補者を集めることが可能になります。
また、現場の従業員が採用プロセスに参加することで、現場のニーズに合った適切な人材にアプローチできるようになります。
人事・採用担当者の負担減
採用チャネルの多様化により、人事・採用担当者の負担は年々大きくなっています。
スクラム採用なら、現場の従業員が実務を分担し、人事・採用担当者が指揮・管理を行うといった役割分担も可能です。
こうすることで、人事・採用担当者は全社的な採用戦略策定に取り組むこともできるようになります。
また、現場の従業員が採用実務を行うことでスキルセットをはじめとした採用基準の作成も容易になります。
従業員の帰属意識やエンゲージメント・育成力の向上
採用活動に関わる従業員は会社の魅力を候補者にアピールしなければなりません。
これにより、各従業員は自社の魅力を深掘りし、客観的に考えるようになります。
「なぜ自分はこの会社で働いているのか」「この会社で働くメリットは何か」を再認識することになります。
その結果、従業員の帰属意識やエンゲージメントの向上につながるようになります。
また、実務を行う従業員に当事者意識が生まれるため、採用した人材の育成にも力が入るようになります。
オンボーディングがスムーズになる
オンボーディングとは、乗り物に搭乗するという意味の「on-board」から派生した言葉です。
本来は乗り物に新しく乗り込むクルーや乗客に対して必要なサポートを行い、慣れてもらうプロセスを指します。
人事・採用分野では、新入社員に一早く職場に慣れてもらうため、職場への配置から定着、戦力化までの一連のプロセスを言います。
従来の採用プロセスでは、入社・配属されるまで現場の従業員と内定者が関わることがほとんどありません。
スクラム採用なら現場の従業員が採用段階で候補者と関係を構築でき、オンボーディングがスムーズになります。
スクラム採用のデメリット
スクラム採用には以下のデメリットがあります。
- 現場の従業員の負担が増える
- 意識統一が困難
- 管理コストが増える
- 役割分担が難しい
それぞれについて下記で解説します。
現場の従業員の負担が増える
スクラム採用では現場の従業員は通常業務に加え、採用活動を行う必要があります。
そのため、現場の従業員の負担が増えてしまいます。
現場の従業員が採用プロセスに本腰を入れたことで本業が疎かになってしまっては元も子もありません。
スクラム採用を導入する際は現場の業務が滞りなく行われるよう、増員や配置転換、業務の見直しなどを並行して行う必要があります。
意識統一が困難
人数が増えれば増えるほど意識統一は困難になります。
人事・採用担当と現場の従業員、経営層など、役割や立場が異なるわけですから、採用活動に対する温度差があるのは当然です。
全員が同じ意識で採用活動を行えればベストですが、現実的には難しいでしょう。
採用活動を成功させるためにも、全員が一丸となって取り組む意義や採用目標を共有し、十分なコミュニケーションを取りながら採用活動を進めることが重要になります。
また、現場の従業員のなかには採用活動の未経験者もいれば、人事・採用担当者の提案する採用手法に否定的な意見の人もいるかもしれません。
意思統一だけでなく、担当者全員に採用スキルやノウハウの浸透を含め、全員が十分な採用活動を行えるようにする必要があります。
管理コストが増える
スクラム採用では現場の従業員が実務を行います。
また、複数の部門・社員が関わるため、採用現場で得られた情報の一元管理が求められます。
さらに採用活動では個人情報を扱います。そのため、情報取扱のルールの徹底やセキュリティ強化なども重要です。
状況によっては管理ツールの導入やコンプライアンス研修を実施する必要があり、管理コストが増大する可能性があります。
役割分担が難しい
スクラム採用では、どこまでを現場に任せるかを明確にする必要があります。
役割やタスクだけでなく、ゴールをどこに設定するのか、目標達成を人事評価に反映させるのかを明確にしましょう。
役割分担については「役割分担とチーム編成を行う」にて後述します。
スクラム採用の導入手順
スクラム採用を導入する際は以下の手順で行います。
- 採用の目的と方針を決める
- 現場の協力体制を構築する
- 役割分担とチーム編成を行う
- 採用活動を行う
- 適切な採用活動になるよう改善を重ねる
それぞれ順を追って説明します。
採用の目的と方針を決める
まずは採用の目的と方針を明確に定義します。
このとき、人事・採用担当者だけでなく、経営層と連携しながら採用活動で達成すべき目的を共有・設定します。
採用活動で達成すべき目的の例としては以下のようなものがあります。
- 応募者数を増やしたい
- 即戦力人材の獲得
- 採用ミスマッチの防止
- 採用プロセスの効率化
- 従業員のエンゲージメント向上
- オンボーディング改善 など
現場の協力体制を構築する
スクラム採用はいかに従業員を巻き込むかが重要です。
そのため、現場の従業員が採用活動に参加するハードルを下げることが重要になります。
採用活動に参加するハードルを下げる施策としては以下のようなものがあります。
- 目標達成の数値を高すぎない値に設定する
- 採用フローを簡略化する など
このとき、現場の意識作りにつながることも意識して体制を構築することも大切です。
取り組みの例としては以下のようなものがあります。
- 困ったことがあればすぐに相談できる仕組みを作る
- 従業員の強みを活かした役割を与える
「この採用活動が自社にとっていかに大切なものか」ということを理解してもらうことも重要です。
経営層を巻き込み、採用活動が「全社的なプロジェクト」であることを浸透させましょう。
役割分担とチーム編成を行う
全社的にスクラム採用の理解が得られたら役割分担とチーム編成を行います。
原則として募集ポジションごとに1チーム、チームごとにプロジェクトマネジメント担当の人事・採用担当者と当該部署の従業員という編成です。
どの部門から何人、どのような役割を担うのかまで明確に決めましょう。
役割分担の例は以下となります。
- 人事・採用担当者:プロジェクトのマネジメント、現場の従業員への教育・指導・フォロー
- 現場の従業員:会社説明会、面接、候補者への連絡など
チーム編成と役割が決まったら、責任や権限の範囲についても定め、人事・採用担当者との連携方法やサポート方法についても決めておきます。
チームが多岐に渡る場合は人事・採用担当者が複数のチームを兼任するのも良いでしょう。
採用活動を行う
スクラム採用では現場の従業員が候補者の選考を行います。
スクラム採用だからといって、プロセス自体は通常と変わりません。
これまで行ってきたプロセスを踏襲したうえで、以下のような場面では現場の視点を最大限に活用しましょう。
- 採用要件の設定
- 応募要項や採用メッセージの作成
- スカウトメールの作成
- 会社説明会
- カジュアル面談
- 書類選考
- 面接
- 合否判定 など
このとき、現場ならではの視点で、候補者のスキルや専門性、組織への適応など見極めることが重要です。
候補者に自社の魅力や働き方、社風まで伝えることでミスマッチを防ぎやすくなります。
適切な採用活動になるよう改善を重ねる
スクラム採用ではPDCAサイクルを回すことが重要です。
スクラム採用を実施し、候補者の入社後の定着や活躍ぶりを振り返り、イレギュラーな出来事やトラブル、目標未達だった事項などの課題を抽出し、改善を図ります。
また、採用プロセスにおける候補者の反応と合否、同席した社員の感想を照らし合わせることもプロセス改善につながります。
スクラム採用を成功させるためのポイント
スクラム採用を成功させるためにも以下のポイントに注意しましょう。
- スクラム採用の環境整備
- 経営陣の理解とコミットメント
- 現場の従業員に権限を移譲する
- 情報を一元管理する
- 目標と成果の可視化
- 人事・採用担当者にマネジメント能力がないと難しい
- バックグラウンドチェック・リファレンスチェックを導入する
それぞれ下記で解説します。
スクラム採用の環境整備
スクラム採用を行うためには、採用活動が全社プロジェクトであることを周知させることが重要です。
ほとんどの企業において採用活動は人事主体で行っているため、「現場が採用活動を行う」という意識がない可能性があります。
また、スクラム採用は現場の従業員の負担が増える手法になります。そのため、以下のような環境整備が必要です。
- スクラム採用の目的と必要性を社内に浸透させる
- 現場の従業員の業務のバランスを調整する
- 採用活動を担う従業員のバックアップ
現場の従業員の業務バランスについては直属上司や所属組織も巻き込んで調整する必要があります。
経営陣の理解とコミットメント
スクラム採用は全社プロジェクトですので経営層の理解と積極的な姿勢が不可欠です。
経営層自らが社内の意識改革や協力体制をアピールし、リードしていく必要があります。
前述のとおり、スクラム採用は現場の従業員の負担が大きくなる傾向があります。
そのため、予算や人材などのリソースを確保できるよう、経営層を巻き込んで取り組んでいくことが重要です。
現場の従業員に権限を移譲する
現場の従業員への権限移譲も重要なポイントです。
スクラム採用では現場の従業員が面接や選考を行います。
それぞれの役割やタスクを明確にしたうえで権限を現場の従業員に移譲する必要があります。
情報を一元管理する
前述のとおり、スクラム採用は複数の部門・従業員が関わります。
選考が人事・採用担当の手を離れることで、採用情報がブラックボックス化したり、コントロールが効かない状態になる恐れもあります。
そのため、候補者に関わる情報や選考の進捗などについて人事・採用担当者が情報を一元管理する必要があります。
一元管理が必要な情報の例としては以下のようなものがあります。
- 面接前に得た情報
- 面接時の判断や懸念点
- 面接後に得た情報 など
状況に応じて、採用管理システムやクラウドツールを活用し、プロジェクトに関わる全員が採用活動における情報をリアルタイムで把握できるようにしておきましょう。
目標と成果の可視化
プロジェクトメンバー全員に主体性を持たせるためにも、採用活動の目標や成果を可視化することが重要です。
人事・採用担当者による進捗状況の確認・フォローはもちろん、成果次第で評価に反映させる取り組みを行うなども有効です。
人事・採用担当者にマネジメント能力がないと難しい
スクラム採用では人事・採用担当者がマネジメントを行います。
また、経営層や他部門の従業員への指導や管理も行うため、人事・採用担当者には高度なマネジメント能力が求められます。
高度なマネジメント能力を持つ人材が人事・採用部門にいない場合はスクラム採用の実施は困難と言えます。
バックグラウンドチェック・リファレンスチェックを導入する
バックグラウンドチェックとは、候補者が提出した資料や経歴が正確なものかどうかを調査することを言います。
一方、リファレンスチェックとは候補者の前職の勤務先に対して候補者の人柄や勤務態度についてヒアリングするものです。
スクラム採用は現場の従業員が面接や選考を行うため、ミスマッチ防止に効果的な手法です。
しかし、あくまで人間だけで判断するため、評価者の主観が入ったり、面接官ごとに評価がわかれるなどの評価エラーが生じる恐れがあります。
バックグラウンドチェックやリファレンスチェックといった多面的で客観的な評価手法を導入することで、評価エラーを回避しやすくなり、採用精度の向上につながります。
まとめ
スクラム採用は全従業員を巻き込むことで採用ミスマッチだけでなく、従業員のエンゲージメント向上など多くのメリットがあります。
しかし、評価者の主観やバイアスによって評価エラーが生じる可能性については否定できません。
バックグラウンドチェックやリファレンスチェックなどの客観的評価手法をプラスすることで、精度の高い採用活動につながります。