育成・離職防止

静かな退職の原因と対策|企業が取るべき行動と見抜く方法

2025.12.22

静かな退職の原因と対策|企業が取るべき行動と見抜く方法

静かな退職という働き方が注目を集めています。

これは実際に退職するわけではないものの、仕事への意欲や貢献意欲がなく、最低限のことしかしない働き方です。

静かな退職を選択する従業員が増えると、組織の生産性や士気に悪影響を及ぼす恐れがあります。

人手不足が加速するなか、「静かな退職」は、企業の人事採用担当者にとっても見過ごせない重要な問題です。

本記事では、静かな退職が広まった背景や静かな退職を選択する理由を深く理解し、採用と組織運営の両面からできる効果的な対策について解説します。

静かな退職(Quiet Quitting)とは?

静かな退職(Quiet Quitting)とは、従業員が「言われたこと以上のことはしない」「必要最低限の業務のみをこなす」という働き方を指します。

実際に会社を辞めるわけではありませんが、仕事に対する熱意や積極的な関与を控え、自発的な行動やキャリアアップの意欲を持たない状態です。

過度な労働や仕事中心の生活から距離を置き、「仕事と私生活の間に健全な境界線を引く」ことを目的とした、自己防衛的な側面を持つ働き方とも言えます。

静かな退職と比較されやすい言葉に「カタツムリ社員」「カタツムリ女子」というものがあります。

これらは、自分のキャリアより私生活を優先して自分のペースで働く人(カタツムリ女子の場合は女性)のことを指します。

静かな退職が仕事を最低限に抑える働き方である一方、カタツムリ社員(女子)は自分の生活を優先する働き方です。

静かな退職は仕事の量、カタツムリ社員(女子)に視点があります。

サイレント退職との違い

静かな退職と似た言葉にサイレント退職があります。

両者を比較すると以下のような違いがあります。

項目静かな退職(Quiet Quitting)サイレント退職(Silent Resignation)
定義会社に在籍しつつ、最低限の業務のみをこなし、熱意や成長意欲を失った状態。実際の退職の意思決定を完了しているが、それを周囲に秘密にしている(またはギリギリまで伝えない)状態。
最終目的持続可能で健康的な働き方を維持すること(心身の消耗を防ぐ)。実際に離職すること。
見極め業務態度やコミュニケーションの変化から推測される。行動や業務の引継ぎの有無など、最終的な離職準備から推測される。

「静かな退職」が企業に在籍し続ける状態であるのに対し、「サイレント退職」は最終的な離職を前提とした行動という点に違いがあります。

静かな退職者を解雇できるのか

最低限指示された業務を遂行している限り、従業員を解雇する法的根拠はありません。

「積極的でない」「主体性がない」という理由だけでは解雇できません。

無理に解雇しようとすれば不当解雇に問われる恐れもあります。

故意に評価を下げる、不本意なポジションに配置転換するなど、従業員を退職に追い込むような環境を作り出す「ステルス解雇」も絶対にやめましょう。

ステルス解雇はパワーハラスメントや労働契約法違反に問われる恐れがあり、法的リスクが高いといえます。

静かな退職者の存在に気づいたら、解雇しようとするのではなく、原因を考え、対策を講じる必要があります。

静かな退職の実態

静かな退職の実態

株式会社マイナビが全国の企業・個人を対象に静かな退職について調査を実施しました。

20 ~50代の正社員に対して「静かな退職をしているか」という問いに対して「している」と回答した割合は44.5%と4割を超える結果となりました。

世代別に見ると、20代が46.7%と最も多く、次いで50代の45.6%、40代の44.3%という結果でした。

この結果から、幅広い世代に静かな退職が広まっていることがわかります。

また、同調査では「静かな退職を今後も続けたいか」についても調査をしています。

その結果、「静かな退職を続けたい」と回答した割合が70.4%と、静かな退職を選択した人のほとんどが「静かな退職を続けたい」と考えていることがわかりました。

静かな退職は自発的に解消されるものではなく、企業が対処しなければならない問題であることがわかります。

参考≫≫
マイナビ キャリアリサーチLab「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
(https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250422_95153/#i-3)」※1

静かな退職を選択している従業員の見分け方

静かな退職状態にある従業員は、目に見える形で問題を起こすわけではないため、見過ごされがちです。

しかし、以下のような行動の変化や熱意の欠如といった兆候に注意深くアンテナを張る必要があります。

  • 最低限の業務しか取り組まない
  • 定時退社を徹底する
  • 仕事での成長意欲や自発的な行動がない
  • コミュニケーションの欠如

それぞれについて下記で解説します。

最低限の業務しか取り組まない

静かな退職を選択している人は予め指示された業務や与えられた職務範囲内のタスクしか取り組まず、新しい提案や改善活動は行いません。

また、新しいプロジェクトや課題、役割など、責任を負うような職務を避け、打診されても断る傾向があります。

定時退社を徹底する

業務量にかかわらず、毎日定時きっかりに退社するというのも静かな退職を選択している社員の特徴です。

特に、以前は残業をしていた従業員が、業務が残っているにも関わらず残業を拒み、定時退社を徹底するようになった場合はその可能性が高いといえます。

仕事での成長意欲や自発的な行動がない

研修や資格取得など、自己研鑽や成長することに興味を示さなかったり、参加を拒んだりするのも静かな退職者の特徴です。

また、会議やミーティングで活発に発言していた従業員が、急に発言が少なくなり、意見を求められても通り一遍の回答しかしないというのも特徴です。

コミュニケーションの欠如

静かな退職を選択している人はチーム活動や懇親会などの社内イベントや業務外の集まりに参加しなくなる傾向があります。

また、上司や同僚との雑談が大幅に減少したりするのも特徴です。

業務においても、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)が形式的で淡白になったり、必要最低限に留まったりすることが増えるようになります。

静かな退職が広まった背景

静かな退職が広まった背景

「静かな退職(Quiet Quitting)という言葉は 2022年、アメリカのキャリアコーチが動画投稿アプリTikTokに投稿した動画によって広まりました。

世界的に注目され、日本でも広がりを見せている背景には、主に以下のような社会環境や価値観の変化があります。

  • ハッスルカルチャーの衰退
  • SNSによる価値観の共有
  • コロナ禍による価値観の変化
  • 組織への不信感

それぞれについて下記で解説します。

参考≫≫
「alifeafterlayoffBryanCreely(https://www.tiktok.com/@alifeafterlayoff/video/7071415799247949099)」※2。

ハッスルカルチャーの衰退

静かな退職が広まった背景のひとつに旧来の働き方(ハッスルカルチャー)が指示されなくなっていることがあります。

ハッスルカルチャーとは、仕事に没頭し、成果のためなら長時間労働を厭わない働き方を美徳とする文化です。

しかし、近年はこの考え方に疑問を抱き、「過度な労働を拒否し、ワークライフバランスを重視する」という人が増えるようになりました。

SNSによる価値観の共有

「静かな退職」という概念が広まった背景にはSNSの発達による部分もあります。

SNSによって多様な働き方や働き方に対する価値観が共有されやすくなり、「静かな退職」も働き方の選択肢として認識されるようになりました。

コロナ禍による価値観の変化

コロナ禍を経て、「仕事のために生きる」という考え方に疑問を抱く人が増えました。

リモートワークが普及し、生活と仕事の境界が曖昧になったことも相まって、ワークライフバランスを明確に意識するようになりました。

組織への不信感

終身雇用の崩壊から、一つの企業で定年まで勤め上げることが当たり前ではなくなりました。

また、「成果を出しても正当に評価されない」「人事制度が不透明」「業務量と待遇が見合わない」など、組織に貢献するだけの価値を見出せなくなくなるケースもあります。

「頑張って昇進しても負担が増えるだけ」、と諦めに近い気持ちが働き、求められる以上の努力はしないようになることがあります。

静かな退職が企業におよぼす影響

静かな退職が企業におよぼす影響

静かな退職は企業の中長期的な成長に深刻な影響を与えます。

  • 生産性低下
  • 組織全体の士気が低下
  • 人材流出
  • 人材育成やマネジメントが難しくなる

それぞれについて下記で解説します。

生産性低下

静かな退職者を放置すると組織の活力や生産性低下を招く恐れがあります。

彼らは最低限の業務しか行わず、組織への帰属意識も低い傾向があります。

イノベーションにつながる自発的な提案や改善活動を行わず、会議やミーティングも「やり過ごすもの」と捉えているため、発言もありません。

しかし、仕事は日々同じことの繰り返しだけで進んでいるわけではなく、新しいアイデアやプロジェクトが進行しています。

彼らのような従業員がいることで商品やサービスの品質やスピードが下がり、顧客離れに繋がる恐れがあります。

組織全体の士気が低下

静かな退職者がいると、高い意欲を持つ他の従業員のモチベーションや士気が低下し、「頑張っても無駄だ」「不公平だ」という空気が組織全体に広がる恐れがあります。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズは従業員規模50人以上の企業に勤める25歳~59歳の正社員7,105名に対して、「働く人の本音調査2025」を実施しました。

調査のなかで「同僚や上司に静かな退職をしている人がいる」と感じるかという問いに対し、「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」との回答が27.7%を占める結果となりました。

これは、約4人に1人が「静かな退職者」が職場にいることを認識していることになります。

なお、同調査では、「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいる」と認識している人とそうでない人の心理状態についても調査しています。

その結果、職場に静かな退職者がいると認識している人はそう感じていない人と比較して、幸福感が低いという結果でした。

また、職場に静かな退職者がいると認識している人を対象に調査した結果、「不利益を被ったことがある」と回答した人が55.1%と半数を超える結果となりました。

不利益の内容としては「仕事量が増えた」が47.7%と最も多く、次いで「モチベーションが下がった」が24.8%という結果でした。

職場に静かな退職者がいることで、組織全体のモチベーションや士気が低下してしまうことがわかります。

参考≫≫
リクルートマネジメントソリューションズ「『働く人の本音調査2025』第2回を発表(https://www.recruit-ms.co.jp/news/pressrelease/5418442413/)」※3

人材流出

静かな退職は人材流出を促します。

静かな退職者がいることによって、他の従業員の負担が増え、モチベーションが下がります。

組織が何も講じなければ、不満が募り、新たな静かな退職者を生み出したり、優秀な人材の流出につながったりする恐れがあります。

静かな退職者自身もやり過ごすだけでは満足感が得られなくなり、実際に退職してしまうケースもあります。

人材育成やマネジメントが難しくなる

静かな退職者は成長意欲やコミュニケーションが欠如しているため、人材育成やマネジメントが難しい傾向があります。

そのため、上司や教育担当者がスキルアップやキャリアに関する指導を行っても響きにくく、育成が滞ります。

また、ベテラン社員が静かな退職を選択している場合、若手にとってはロールモデルがいないことになります。

そのため、若手社員の成長意欲もなくなり、ますます人材育成が難しくなるといった負の連鎖が生じます。

従業員が静かな退職を選択する理由

従業員が静かな退職を選択する理由

従業員が静かな退職に陥る原因には以下のようなものがあります。

  • 正当に評価されていないと感じる
  • 組織や仕事に対して不満がある
  • 仕事への価値観が変化した
  • ワークライフバランスの重視
  • キャリアビジョンや将来に不安がある

原因はひとつではなく組織、評価、個人の価値観など多岐にわたります。

正当に評価されていないと感じる

「業務内容に対して相応の報酬が得られていない」「貢献や成果が正当に評価されていない」など、評価基準の不透明さは静かな退職を選択する理由のひとつです。

職務と報酬のバランスが取れておらず、上司からのフィードバックや評価も不足していれば、「頑張っても報われない」「昇進しても負担が増えるだけ」と感じるかもしれません。

また、フィードバックや評価があっても、明確な基準がなく、上司の主観に左右されている場合は「不公平だ」と考えるかもしれません。

こういった状況が続くと、仕事へのモチベーションや成長意欲を維持できなくなってしまいます。

組織や仕事に対して不満がある

職務への報酬や評価だけでなく、組織や仕事自体への不満も静かな退職を選択する理由として多いものです。

人事プロフェッショナルブティック「CORNER」を運営する株式会社コーナーが従業員100名以上の企業の正社員413名を対象に静かな退職について調査を実施しました。

それによると、静かな退職者が不満を感じる点として「給与・評価が期待に見合っていない」が最も多く、47.0%という結果でした。

次いで「評価・昇進の基準が不透明」で30.4%と、給与や評価に対する不満が多い結果でした。

一方、「会社の将来性不安」「パーパス共感不足」「業務量や仕事の進め方」など組織への信頼や仕事に関する理由も多く、改善すべき点であることが見えてきます。

参考≫≫
株式会社コーナー「静かな退職層が4割、不満の理由TOPは「給与」「評価基準」、組織の信頼・パーパス共感不足も【調査レポート公開】
(https://www.corner-inc.co.jp/news/2025-06-04/)」※4

仕事への価値観が変化した

近年、働き方改革やリモートワークの普及などにより、仕事への価値観が大きく変わってきました。

仕事中心の生活や新卒で入った企業に定年まで勤め上げる生き方だけでなく、私生活や本業以外でのキャリア形成などを重視する人が増えたことも、静かな退職を選ぶきっかけのひとつといえます。

ワークライフバランスの重視

ワークライフバランスを重視し、心身の健康や私生活を守るために静かな退職を選ぶ人もいます。

仕事による過度なストレスを避け、仕事と生活の間に明確に線を引き、プライベートの時間を確保しようと考えて静かな退職を選ぶことがあるようです。

キャリアビジョンや将来に不安がある

何のスキルを習得し、どのポジションに就けばどれだけ報酬が増えるのかが提示されず、キャリアパスが不明確なままでは、自分の将来やキャリアビジョンが見通せません。

また、研修制度や自己研鑽の時間が不十分であったり、社内にロールモデルがいなかったりする場合は成長意欲が削がれてしまいます。

どれだけ何をやれば良いかわからず、成長意欲が削がれた結果、「言われたことだけやれば良い」と感がえるようになるのです。

静かな退職を防止するために企業ができること

静かな退職を防止するために企業ができること

人事採用担当者として、静かな退職を未然に防ぎ、従業員のエンゲージメントを高める取り組みが不可欠です。

具体的な取り組み例としては以下のようなものがあります。

  • 業務内容と賃金のバランスを見直す
  • 公平で透明性の高い評価制度の構築
  • ストレスチェックの実施
  • エンゲージメントサーベイの実施
  • 心理的安全性を構築する
  • 多様な働き方の導入
  • 採用段階で静かな退職を選びそうな人材を見抜いておく

それぞれについて下記で解説します。

業務内容と賃金のバランスを見直す

前述のとおり、静かな退職の原因には「業務内容と報酬のバランス」や「業務量や仕事内容」に関するものが多いです。

そのため、給与水準が市場価値と乖離がないか、貢献度に見合っているかを定期的に検証することが大切です。

また、適切に職務内容を定め、目標設定を行うことも重要です。

自分に与えられた仕事の負荷や責任が重いかどうか、何を期待されているかなどがわからないと仕事へのモチベーションも低下します。

職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を明確にし、職務範囲や業務量を管理することが大切です。

従業員に見合った目標を設定し、業務を通してどのようなことを求められているかについても明文化したうえで、フィードバックと管理を継続して行うことも重要です。

公平で透明性の高い評価制度の構築

従業員の貢献に対して、正当な評価だと感じられるように評価制度を構築・見直すことも大切です。

具体的にはKPIや昇給・昇格の基準の見直しを行います。

また、評価基準や評価プロセスを従業員にすべて開示し、納得感を高めることも大切です。

このとき、直接的な成果だけでなく、成果までのプロセスやチームへの貢献なども評価対象に含めると良いでしょう。

定期的に1on1やフィードバックを行い、従業員の貢献や努力を承認・評価し、キャリアについてコミュニケーションをとることも大切です。

ストレスチェックの実施

ストレスチェックの実施

ストレスチェックを実施し、従業員のメンタルヘルスの状態を把握することも重要です。

ストレスチェックとは、従業員が自分のストレスがどのような状態かを把握する検査です。

労働安全衛生法により、常時50人以上の従業員がいる企業は年一回のストレスチェックが義務付けられています。

心理的な負荷の多い職場は静かな退職の引き金になり得ます。

検査結果をもとに、職場環境の改善や高ストレス者に対するカウンセリングや産業医面談など適切にサポートすることが大切です。

ハラスメントの排除や業務量のマネジメント体制を見直すことも重要です。

なお、ストレスチェックは令和10年5月までに50人未満の企業も義務化されることが決まっています。

参考≫≫
厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38890.html ※5

エンゲージメントサーベイの実施

エンゲージメントサーベイを実施し、従業員の組織に対する愛着や貢献意欲(エンゲージメント)を定期的に測定することも良いでしょう。

これにより、静かな退職者の早期発見ができ、早い段階で対策をとることができます。

調査結果から社員の不満の原因である組織課題を特定し、改善策を講じていくことで、効果的な対策をとることができます。

心理的安全性を構築する

心理的安全性を構築することも重要です。

心理的安全性とは、自分の意見を安心して伝えられる環境をいいます。

上司や同僚に相談しやすく、意見を伝えやすい職場環境を作ることで、従業員が「自分の意見が組織運営に反映される」と感じられるようになります。

具体的には定期的な1on1ミーティングの実施、メンター制度の導入などがあります。

また、横断的に交流できる社内イベントの実施や目安箱、社内アンケートなどの意見を吸い上げる仕組みの導入もおすすめです。

このとき、管理職に対し、心理的安全性やコーチングスキルの研修を実施し、マネジメント力を含めて進めていくことも重要です。

多様な働き方の導入

静かな退職を予防する方法として、多様な働き方の導入も有効です。

従業員のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を提供し、ワークライフバランスの改善を図ることで、従業員の満足度向上につながります。

具体的な例には以下のようなものがあります。

  • フレックスタイム制度
  • リモートワーク
  • 時短勤務
  • 時差出勤 
  • 介護休暇・育児休暇制度の見直し など

なお、組織や仕事への不満や評価制度などに不満がある場合は、働き方の改善だけでは解決しない可能性があります。

原因を特定し、自社の課題に合った方法を選択しましょう。

採用段階で静かな退職を選びそうな人材を見抜いておく

組織の課題改善は当然ですが、採用段階で自社の文化や期待する貢献度と合致しない人材を見抜いておくことも重要です。

静かな退職者のなかには、元々成長意欲が乏しい、主体性がないという場合もあります。

このような人材を採用段階で見抜いておくことは静かな退職を防ぐ意味でも大切です。

静かな退職を選びそうな人材の特徴については次項にて解説します。

入社後に静かな退職を選びそうな人材の特徴

入社後に静かな退職を選びそうな人材の特徴

前述のとおり、静かな退職者のなかには、元々成長意欲や主体性に欠けている人材である場合もあります。

特に下記のような特徴がある場合、注意する必要があります。

  • やりがいや業務内容より賃金やワークライフバランスを優先する
  • 安定を好み、変化や想定外の出来事を嫌う
  • キャリアビジョンが曖昧

なお、合否判断をする際は、単に回答内容だけでなく、仕事への熱意や自発的な行動に関する具体的なエピソードまで引き出すことが重要です。

それぞれについて、面接での質問の仕方と注目ポイントについて下記で解説します。

やりがいや業務内容より賃金やワークライフバランスを優先する

やりがいや業務内容より賃金やワークライフバランスを優先する人材は、静かな退職を選ぶ可能性があります。

もちろん、自己研鑽の時間を確保したい場合や家庭の事情などやむを得ない理由がある場合は除きます。

しかし、そういった事情がなく、賃金やワークライフバランスばかりを優先する場合は仕事への意欲や主体性が低い人材である可能性があります。

面接では以下のように質問し、業務や仕事への価値観や姿勢を確認すると良いでしょう。

「業務に取り組むうえで大切にしていることはありますか」
「日頃どのような目的意識を持って仕事に取り組んでいるか」など

このとき、回答が曖昧だったり、矛盾していたりする場合は注意が必要です。

また、候補者から企業への質問が「仕事を通して何を達成したいか」よりも、給与や残業時間、福利厚生に関する質問や回答に終始する場合も注意が必要です。

安定を好み、変化や想定外の出来事を嫌う

安定を好み、変化や想定外の出来事を嫌う人材も将来的に静かな退職を選ぶ可能性があるといえます。

このような人材は想定外の出来事が起きた際にチャンスと捉えたり、乗り越えようとする意欲が生まれにくかったりする傾向があります。

面接で確認する際は以下のように掘り下げると良いでしょう。

「困難な状況に直面したことはあるか、そのときどういう気持ちになったか、それをどう乗り越えたか」
「今までの仕事で経験したトラブルのなかで印象的なものは何か、最初の行動は何か、その後どのような成果があったか」

トラブルや想定外の出来事をチャンスや成長と捉えず、周りの人や環境のせいにする場合は他責思考が強く、新しいことへの挑戦意欲が低い人材である可能性があります。

キャリアビジョンが曖昧

キャリアビジョンが曖昧

キャリアビジョンが曖昧な人材も要注意です。

キャリアビジョンが曖昧な人のなかには「選択肢が多すぎて決められない」というケースもあります。

しかし、「失敗が怖くて挑戦できない」「ネガティブ思考」という場合は、成長意欲が低い可能性もあります。

面接での質問例には以下のようなものがあります。

「5年後、10年後にどうなりたいか」
「仕事を通して実現したいことは何ですか」

キャリアビジョンに具体的なイメージや目標がなく、「現状維持」や「(なんとなく)昇進したい」といった曖昧な回答に留まるような場合は注意しましょう。

なお、面接時は候補者が自分を良く見せようと振舞うものです。

バックグラウンドチェックやリファレンスチェックを行い、候補者の主張に虚偽がないかを確認すると採用精度の向上につながります。

まとめ

静かな退職(Quiet Quitting)は、単なるサボりではなく、従業員が組織や評価制度に対して抱える不満や、自己防衛の結果として現れる現象でもあります。

企業側は公平で透明性の高い評価制度や心理的安全性の高い労働環境を構築し、従業員のエンゲージメントを維持しながら、組織の持続的な成長を支えることが求められます。

また、静かな退職を選択する人材を採用段階で見抜いておくことも重要です。

人事採用担当の方は、採用段階で入社後の貢献意欲や価値観を深く見極め、入社後もフォローしていくことが大切です。

面接や書類では候補者が良く見せようとするものです。

バックグラウンドチェックやリファレンスチェックを併用し、プライベートでの言動や前職での働きぶりをチェックしておくと良いでしょう。

もっとも、どれだけ優秀な人材を採用しても、賃金と職務のバランスが良くなかったり、評価制度が整っていなかったりする場合は静かな退職や人材流出リスクが高くなります。

採用段階で人材を見抜くことはもちろん、組織体制や賃金と職務のバランス、労働環境、評価制度など総合的に見直し、静かな退職を防いでいきましょう。

※1マイナビ キャリアリサーチLab「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
※2 alifeafterlayoff Bryan Creely|TikTok
※3 リクルートマネジメントソリューションズ「『働く人の本音調査2025』第2回を発表
※4 株式会社コーナー「静かな退職層が4割、不満の理由TOPは「給与」「評価基準」、組織の信頼・パーパス共感不足も【調査レポート公開】
※5 厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会