オンボーディングとは?ビジネスでの意味と効果的に行うポイント
2025.01.20
オンボーディングとは新入社員がいち早く組織に馴染むための施策を言います。
採用した人材が組織に馴染み、戦力として活躍してもらうように育成することは、どの企業にとっても重要です。
近年、働き方の多様化や人材不足により、オンボーディングに悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。
この記事を最後まで読むことで以下のことがわかります。
- オンボーディングとは何か
- オンボーディングを実施するメリット
- オンボーディングプログラムの導入方法
- オンボーディングプログラムの具体例
- オンボーディングを実施する際のポイント
オンボーディング(onboarding)とは
オンボーディング(onboarding)とは「飛行機や船などの乗り物に乗っている」という意味のon-boardingが由来です。
ビジネス用語のオンボーディングはこれが転じて生まれた言葉で、新しい仲間が組織に順応しやすくするための取り組みを指します。
オンボーディングは新卒入社だけでなく、中途入社者や出向者、社内異動においても行うことがあります。
オンボーディングを適切に実施することで、組織全体が活性化し、生産力向上が期待できます。
OJT・Off-JTの違い
オンボーディングと似た言葉にOJTやOff-JTがあります。
OJT(On the Job Training:オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、実務を通して社員を育成する手法です。
一方、OFF-JT(Off the Job Training:オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、日常業務から離れ、座学スタイルの集合研修などを言います。
OJTと異なり、採用担当者が企画した育成プログラムや社外の研修機関による講習など様々なスタイルのものがあります。
オンボーディングは業務だけでなく、企業文化や職場の人間関係など幅広く順応してもらうためのプログラムも含むため、OJTやOFF-JTよりもサポート範囲が広くなります。
オンボーディングが注目される背景
オンボーディングが注目されるようになった背景には以下のようなものがあります。
- 早期離職の増加
- リモートワークへの対応
それぞれについて以下で解説します。
早期離職の増加
ソニー生命が2019年、社会人1,2年目に対して行った調査によると、新入社員の約3割が入社から2年で「辞めたい」と考えていることがわかりました。
採用難易度が高まる現代においては、これまで以上に採用した人材が組織に馴染み、戦力となって長く勤めてもらうことは重要な課題となっているのです。
参考:ソニー生命「社会人1年目と2年目の意識調査2019(https://www.sonylife.co.jp/company/news/2019/nr_190418.html#sec6)」※1
多様な働き方や価値観への対応
近年、リモートワークなど労働環境においても働き方の多様化を取り入れる企業が増えました。
働き方の多様化により、従業員同士が対面で仕事をする機会が減少しています。
労働環境が変わりゆくなか、これまでのOJTなどの対面形式だけでは人材の育成が難しくなりました。
労働環境の変化に対応しつつ、採用した人材がいち早く組織に馴染むためにも、オンボーディングの導入に注目が集まっているのです。
オンボーディングの目的
オンボーディングを行う目的には主に以下のようなものがあります。
- 早期離職の防止
- 新入社員が組織に馴染みやすくするため
- 人材育成環境の標準化
それぞれ以下で解説します。
早期離職の防止
近年、転職が珍しいことではなくなり、人材の流動化が激しくなっています。
人材獲得競争が激化するなか、採用した人材が離職すると採用コストが嵩み、経営リスクにつながる恐れがあります。
オンボーディングを行うことで、早期離職の防止や定着率の向上、採用コストの削減につながります。
新入社員が組織に馴染みやすくするため
新入社員は業務内容だけでなく、組織のルールや企業文化など様々なことがわかっていません。
このような状態では組織に馴染むまでに時間がかかってしまいます。
特に企業独自のルールや文化は明文化されていないため、コミュニケーションを取りながら習得する必要があります。
オンボーディングの実施により、新入社員が企業のルールや文化を習得でき、組織に馴染みやすくなる効果が期待できます。
人材育成環境の標準化
育成環境の標準化もオンボーディングの目的のひとつです。
OJTは現場の裁量に任されているため、内容が標準化されていないことが多く、担当者や所属部署によってやり方に差が生じます。
一方、オンボーディングは人事部などの担当部署が全社共通で実施するプログラムです。
そのため、所属部署や担当者による差が生じにくく、育成環境を平等に提供できます。
オンボーディングを実施するメリット
オンボーディングを実施するメリットには以下のようなものがあります。
- 採用や育成コストの削減
- 新入社員の早期戦力化
- 組織の生産性向上
- 従業員エンゲージメントの向上
それぞれについて以下で解説します。
採用や育成コストの削減
人材を採用・育成するためには当然コストがかかります。
人材を採用・育成する際に生じるコストには以下のようなものがあります。
外部コスト | 求人媒体の掲載費用 人材紹介サービスの利用料、紹介料 会社説明会などの出展費用 採用サイトの作成費用 |
内部コスト | 人事採用担当者の人件費 教育担当の従業員の人件費 紹介社員へのインセンティブ |
求人媒体や人材紹介サービスに支払う外部コスト以外に盲点になりがちなのが社内で発生する採用・育成コストです。
採用した人材が離職すると、これらのコストが嵩んでしまいます
オンボーディングによって離職率が下がれば、採用・育成コストを削減できます。
新入社員の早期戦力化
前述のとおり、オンボーディングは新入社員が組織に馴染みやすくなるための施策です。
採用した人材が組織にスムーズに順応すれば、成長スピードが上がり、早期に能力を発揮し、戦力として活躍しやすくなります。
組織の生産性向上
新入社員がパフォーマンスを発揮するまでの時間を短縮できれば、業務遂行がスムーズに進みます。
また、新入社員育成の時間が短縮されることで、指導役も本業に集中できるため、組織全体の生産性向上につながります。
従業員エンゲージメントの向上
オンボーディングを実施することで新入社員のエンゲージメント向上が期待できます。
入社直後の新入社員は理想と現実のギャップや人間関係、業務の習得など様々な不安や悩みを抱えがちです。
オンボーディングによって不安が解消されれば、エンゲージメントが向上しやすくなります。
一方、オンボーディングに関わることは既存の従業員にとっても企業理念やビジョンを再確認する良い機会となります。
また、新入社員と既存の従業員が交流することで、コミュニケーションが円滑になり、組織風土も改善しやすくなります。
従業員側のメリット
オンボーディングは従業員側にもメリットがあります。
入社直後の不安が解消され、組織に馴染みやすくなれば、安心して仕事に取り組むことができます。
また、早期にパフォーマンスを発揮できれば、やりがいを感じ、前向きな気持ちで業務に取り組むことができます。
オンボーディングの導入方法
オンボーディングの導入手順は以下のとおりです。
- 目標とスケジュールの設定
- オンボーディングプログラムを作成する
- オンボーディングプログラムを実施するための環境作り
- オンボーディングプログラムの実施
- PDCAを回す
それぞれ順を追って解説します。
目標とスケジュールの設定
まずオンボーディングの目標とスケジュールを設定します。
このとき、「採用した人材にどのように成長してもらいたいのか」「いつまでにどのようなスキルを身に着けてほしいのか」を具体的に言語化しましょう。
こうすることで、オンボーディングの目標が明確になります。
また、目標達成のためにどのようなプログラムをどのようなスケジュールで立てれば良いかが見出しやすくなります。
なお、目標設定時には以下の点に注意しましょう。
- 達成できそうな目標であること
- 期間を区切ること
なお、目標設定は組織の課題や事業計画だけでなく、現場の従業員の声も参考にして作成すると効果的です。
例えば、既存の従業員に以下のようなアンケートを行い、結果を踏まえて作成すると良いでしょう。
- 入社前後でどのような教育プログラムがほしかったか
- 入社前後でどのような不安を抱えていたか など
プログラムを作成する
目指すゴールが明確になったら、プログラムの原案を作成します。
オンボーディングプログラムは採用した人材に合わせてカスタマイズするのが望ましいです。
具体的な作成方法としては、まず汎用性の高い原案を作成します。
原案を作成したら、募集するポジションや現場の声を基にカスタマイズしていきます。
採用した人材との面談内容や人柄など採用活動で知り得た情報も取り入れることで、一人ひとりに合ったプログラムを作成することができます。
具体的なプログラム例は「オンボーディングプログラムの具体例」にて後述します。
オンボーディングプログラムを実施するための環境作り
次にオンボーディングプログラムをスムーズに実施するための環境作りを行います。
まず、新入社員の上司や配属先の従業員、関連部署にオンボーディングプログラムを共有します。
設定したスケジュールに沿って説明、周知を行うことでより理解を深めてもらいやすくなります。
また、新入社員を受け入れるための心構えを整えることもできます。
併せて研修を実施する会議室の予約や指導担当のスケジュールも押さえ、環境を整えておきましょう。
オンボーディングプログラムの実施
新入社員が入社したら、オンボーディングプログラムを実施します。
オンボーディングプログラムの目的は新入社員が組織に馴染みやすくすることです。
新入社員に合わせてプログラムをカスタマイズしたつもりでも、実際に運用してみると不都合が生じることもあります。
プログラム実施中・実施後も新入社員とこまめにコミュニケーションを取り、問題がある場合は微調整するなど柔軟に対応していきましょう。
PDCAを回す
オンボーディングプログラム実施中・実施後は必ず振り返りを行いましょう。
プログラムの評価方法の例には以下のようなものがあります。
- 上司やメンター、トレーナーからのフィードバック
- 目標達成度
- 新入社員や既存従業員へのアンケート調査 など
目標が達成できていない場合や問題が生じた場合は原因を突き止め、今後の施策に反映させます。
オンボーディングプログラムの具体例
ここからはオンボーディングプログラムの具体例をご紹介します。
オンボーディングは入社直後だけでなく、以下の3つのタイミングで実施すると効果的です。
- 入社前のプログラム
- 入社直後のプログラム
- 継続して実施するプログラム
以下でそれぞれのタイミングに合ったプログラム例をご紹介します。
入社前のプログラム
オンボーディングは入社前から行うことで、内定辞退の防止や早期離職の効果が期待できます。
入社前におすすめのプログラム例としては以下のようなものがあります。
- 内定者インターン制度の導入
- 内定者交流会
- 入社前研修・社内見学
- 既存従業員・上司との交流会
- 人事との定期面談
- 社内報や課題図書の提供 など
入社直後のプログラム
入社直後は不安な気持ちが最も高まる時期である一方、学習意欲が高まる時期でもあります。
これを活用して、企業文化やルール、業務内容や業界事情を理解させると良いでしょう。
入社直後の実施に適したプログラム例はとしては以下のようなものがあります。
- 経営陣から企業理念やミッションについて講義
- 業界・業種の専門的知識を深める研修
- 自社の事業や製品、サービスの理解を深めるための研修
- 各部署やチームの役割、施設を紹介する研修
- ビジネスマナー研修
- 新入社員一人ひとりに対して個別に目標設定をおこない、メンターがサポートする
- 新入社員発表会
- 同期会
- 歓迎会やランチ会
- OJT など
継続して実施するプログラム
オンボーディングプログラムは入社前後だけでなく、入社後継続して行うことで定着率を上げる効果が期待できます。
具体的には3か月後、半年後、1年後などのタイミングで実施すると良いでしょう。
- 1to1
- メンター制度
- 同期や他部署などさまざまなグループ同士の交流会
- 自己研鑽・スキルアップ研修 など
オンボーディングを実施する際のポイント
オンボーディングを実施する際は以下の点に注意しましょう。
- 事前準備の徹底
- 組織全体でサポートする意識を持つ
- メンター・トレーナーの育成
- 情報の集約・一元管理
- スモールステップ法の導入
- 企業と新入社員の期待値や役割のズレをなくす
- 教育機会を充実させる
- 定期的にフォローする
- バックグラウンドチェックやリファレンスチェックを活用
それぞれについて以下で解説します。
事前準備の徹底
まずは新入社員の出社日までに受け入れ体制を整えておきましょう。
PCや机などの仕事で必要なものを揃えるのはもちろん、社内ポータルの設定や社内SNSなどのツールの導入、研修に必要な資料、懇親会の計画なども整えておきましょう。
また、オリエンテーション担当や指導係を決定し、研修準備を行うなどの準備も徹底しましょう。
事前準備を万全にしておくことで、新入社員の不安な気持ちが軽減し、モチベーションやエンゲージメント向上につながります。
組織全体でサポートする意識を持つ
オンボーディングは新入社員が組織に馴染むための施策です。
仕事を進めていくなかで、直属上司には相談できない悩みや外からの意見を聞きたい場面も出てくるでしょう。
直属上司や同僚だけでなく、組織全体でサポートする意識作りを心がけましょう。
業務上、新入社員と直接的に関係がない部署や従業員を複数紹介することで困ったときの相談先が増え、安心感が得られます。
人だけでなく、困ったときに見るべきマニュアルの場所も教えておくとより良いでしょう。
これについては「情報の集約・一元管理」にて後述します。
メンター・トレーナーの育成
メンター制度とは新入社員と年齢の近い従業員がサポート役になる制度です。
業務だけでなく、人間関係など職場で抱える悩み全般に対してフォローする役割があります。
メンター制度をうまく活用することで、新入社員の不安や理想と現実のギャップを軽減でき、早期離職の防止効果が期待できます。
メンターやOJT担当社員(トレーナー)は直属上司以外の従業員を割りあてるのがベターです。
縦横だけでなく、斜めの関係性を築くことで、より人間関係の構築が容易になります。
ただし、メンターやトレーナー自身に十分な心構えや適性がない場合は逆効果になり、トラブルに発展する恐れがあります。
特にリモートワークを導入している企業の場合、新入社員とのコミュニケーションが取り難く、関係性が築けない恐れがあります。
このような場合、メンター・トレーナー育成のトレーニングを外部機関に委託し、質を高めることも検討すると良いでしょう。
情報の集約・一元管理
マニュアルや専門書など新入社員がキャッチアップに必要な情報を集約しておくことも重要です。
困ったときにどこへ相談すれば良いかについてのフローチャートなどもあればベターです。
こうすることで、新入社員が簡単に情報にアクセスできるため、成長を加速することができます。
従業員が自ら学べる体制を整えることは、従業員のエンゲージメントや定着率の向上にもつながります。
オンボーディングを実施する側にとっても、人事情報を集約し、一元管理することは非常に重要です。
こうすることで、オンボーディングプログラムの実施中に人材や研修場所などの調整を速やかに行えます。
スモールステップ法の導入
スモールステップ法とは、大きな目標を達成可能なステップに小さく分け、段階的に進めていく方法です。
オンボーディングプログラムでは、短期的な結果に一喜一憂するのではなく、長期的視点を意識して行うことが重要です。
初めから新入社員に大きな目標を与えても、達成できるイメージが持てず、挫折してしまう恐れがあります。
また、成果が出るまで時間を要する目標を掲げてしまうとストレスを抱えてしまう恐れがあります。
スモールステップ法を活用することで、成功体験を積むことができ、自信をつけ、業務を遂行していくことができます。
企業と新入社員の期待値や役割のズレをなくす
早期離職を防止し、従業員に長く活躍してもらうことが企業にとって重要な課題です。
早期離職の主な原因に新入社員と企業側のギャップがあります。
オンボーディングのなかで新入社員に求める役割や期待値を伝え、双方の考えや理想をすり合わせ、認識のズレをなくしていくことが重要です。
新入社員と企業の認識のズレをなくすための施策の例としては以下のようなものがあります。
- 入社前研修
- 内定者インターン
- 経営陣や人事による講義
- 上司や人事との定期的な面談
- 質問窓口の設置
- メンター制度の導入
- OJT など
教育機会を充実させる
新入社員が自ら学べる体制を醸成することは定着率・エンゲージメントの向上につながります。
教育機会を充実させ、自ら学べる仕組みづくりを心がけましょう。
初期費用はかかりますが、従業員の成長や定着率向上が期待できることを踏まえれば、長期的に見ればプラスになります。
施策例としては以下のようなものがあります。
企業理念やミッションなどを学ぶ研修
会社・各施設・各部署見学
e-learningや課題図書、スキルアップ講座の提供・実施
社内報などの学習資料の提供
業界・業種の専門的知識を深める研修
各部署、各施設の見学会
内定者同士の交流会 など
定期的にフォローする
オンボーディングを成功させるためには、定期的なフォローが欠かせません。
上司との1on1で定期的に面談を行い、業務の進捗状況や課題などを共有しましょう。
また、新入社員と既存の従業員の交流を図ることも重要です。
新入社員にとっては頼れる相談先が増えますし、既存の従業員の成長を促す効果も得られます。
既存の従業員と新入社員の交流の施策例としては以下のようなものがあります。
- 社内イベント
- チームミーティング
- ランチ会
- 部署横断プロジェクト など
バックグラウンドチェックやリファレンスチェックを活用
オンボーディングは採用した人材のスキルや人柄に合わせてプログラムを作成することが重要です。
しかし、新入社員の主張する経歴やスキルが虚偽であれば正しいプログラムを作成することはできません。
採用前にバックグラウンドチェックやリファレンスチェックを行い、採用ミスマッチを防ぎましょう。
なお、バックグラウンドチェックやリファレンスチェックで得た情報は、オンボーディングプログラムに取り入れることで活かすことができます。
まとめ
オンボーディングプログラムは新入社員が組織に馴染みやすくするための施策です。
オンボーディングプログラムは人事・採用担当だけでなく、組織全体で採り組む必要があります。
組織全体で取り組むことにより、新入社員だけでなく、既存従業員のエンゲージメントや定着率向上にもつながります。
また、オンボーディングプログラムは採用した人材のスキルや人柄に合わせてプログラムを作成することが重要です。
バックグラウンドチェックやリファレンスチェックを通じて得た新入社員の情報はプログラム作成に活かすことができ、オンボーディングを効果的に行うことができます。
ここでご紹介した内容を参考に、自社のオンボーディングにご活用ください。
※1 ソニー生命「社会人1年目と2年目の意識調査2019」