連鎖退職の原因とは?企業に及ぼす影響と採用前からできる防止策
2024.10.07
連鎖退職とは、誰か一人の退職をきっかけにほかの従業員も次々に退職することを言います。
退職者が続出すれば、人手不足に拍車がかかり、生産性の低下や企業イメージの悪化などを招き、更なる退職者が出る、といった悪循環につながる恐れがあります。
そのため、連鎖退職は起こってからではなく、起こる前に防止策を講じることが重要です。
この記事を最後まで読むことで以下のことがわかります。
- 連鎖退職とは何か
- 連鎖退職が起こる原因
- 連鎖退職が企業におよぼす影響
- 連鎖退職の防止策
連鎖退職とは
連鎖退職とは、一人の従業員の退職をきっかけに同じ職場の従業員が相次いで退職することを言います。
コストをかけて採用・育成した社員の連鎖退職は人事・採用担当者が危惧すべき問題です
また、短期間で複数の従業員が退職すれば、残った従業員の負担は増大します。
その結果、従業員の不満が溜まり、生産性が低下し、最悪の場合、組織が崩壊して倒産にいたる恐れもあります。
なお、連鎖退職には主に以下の2つのパターンがあります。
- ドミノ倒し型:一人の退職によって周りの従業員の業務負担が大きくなることで生じる退職
- 蟻の一穴型:エース社員や人望のある管理職が退職し、それに追随するように周りの従業員が退職すること
連鎖退職が起こる原因
連鎖退職が起こる原因には以下のようなものがあります。
- 採用のミスマッチ
- 人望のある管理職やエース社員の離職
- 労働環境・労働条件への不満が爆発
- 経営者・経営陣の交代
- 人手不足
- マネジメント・評価方法が不適切
- 会社の評判が悪化
それぞれ以下で詳しく解説します。
採用のミスマッチ
若手社員や新入社員の退職理由に多いのが採用のミスマッチです。
労働環境や業務内容、社風、人間関係などが入社前にイメージしていたものと異なるというものです。
人手不足が慢性化している昨今、「第二新卒」という枠もあることから、若手の労働力はニーズが高いと言えます。
入社間もない段階では帰属意識が芽生えていないことも多く、違和感を覚えながら働き続けるより、早く見切りをつけてしまおうと考える傾向があるようです。
人望のある管理職やエース社員の離職
人望のある管理職やエース社員が退職することも連鎖退職の原因になります。
例えば、残された従業員が以下のように考えたり、職場内で会話を交わすことで、連鎖退職につながる要因になります。
「あの人が辞めるならこの会社に未来はない」
「あの人が辞めるくらいこの会社の雲行きは怪しいのかもしれない」
「自分の知らないところでこの会社に何か問題があるのではないか」
尊敬する先輩や上司の退職によって残された従業員が動揺し、モチベーションが低下します。
さらに、会社への不安が募ったり、目標を見失ったりすることで連鎖的に退職してしまうのです。
これが蟻の一穴型と呼ばれる現象です。
労働環境・労働条件への不満が爆発
現在の労働環境に対する不満が爆発することも連鎖退職の原因のひとつです。
例えば以下のようなケースです。
- 長時間労働を強いられているにも関わらず低賃金である
- 人手不足が続いているにも関わらず、人材を採用しようとしない
- 人事評価が不公平
- 有給休暇を自由に取得できない
- 経営方針や自社の方向性に疑問を感じる
- ワークライフバランスが難しい など
経営者・経営陣の交代
経営者や経営陣の交代も連鎖退職が起きる原因のひとつです。
新しい経営者になることで経営方針が分かり、従業員にストレスがかかります。
特に以下のようなケースでは連鎖退職が起きやすくなります。
- 経営方針やビジョンが大きく変更した
- 評価基準が不公平なものになった
- 経営層から従業員に十分な説明がない など
人手不足
一人の退職によって人手不足が加速し、従業員一人あたりの業務負担が増大することで新たな退職を産むケースがあります。これがドミノ倒し型です。
元々人員不足の状態で無理やり運営している会社では、誰か一人が退職することで残りの従業員が負担増に耐えられなくなり、次々に退職してしまうのです。
特に中小企業など人数の少ない企業に見受けられるケースです。
マネジメント・評価方法が不適切
上司や管理職による不適切なマネジメントや評価が原因で退職するケースもあります。
例えば以下のようなケースです。
- 現場の声を聞かずに一方的に自分の考えを通そうとする
- パワハラやセクハラの常態化
- 人事評価が主観的で不平等である
- 目標設定が曖昧
- フィードバックがない など
会社の評判が悪化
業績や会社の評判が悪化することも連鎖退職につながります。
退職が増えることでサービスや商品の質が低下し、顧客からの信頼を失えば業績も評判も落ちてしまいます。
SNSや口コミに悪い評判が流布されると新しい人材も集まりにくくなります。
また、これらの悪い評判を見た従業員が「倒産するのでは」と不安になり、連鎖退職につながってしまうのです。
連鎖退職が起きやすい社会的背景
退職を考える理由やきっかけは人によって様々です。
一方、昨今の社会的背景が連鎖退職を促進している可能性もあります。
例えば以下のようなものです。
- 人材の流動化が活発になった
- 働き方の多様化
- キャリアに対する価値観の変化
それぞれについて以下で詳しく解説します。
人材の流動化が活発になった
コロナウイルス感染拡大の影響により2020年の有効求人倍率は1.18まで落ち込みましたが、年々増加傾向にあり、2023年は1.31まで上昇しています。
日本は少子高齢化が慢性化していることから、この傾向は今後も続くことが予想されます。
終身雇用制度は崩壊しており、転職が珍しいことではなくなっています。
また、企業側はAIやITテクノロジーなど新たな技術やビジネスモデルに対応する必要が生じ、多様なスキルやバックグラウンドを持つ人材を求めるようになりました。
これらの社会的背景により、転職市場が活性化し、人材の流動化が活発になっているのです。
働き方の多様化
コロナ禍で浸透したリモートワークですが、現在はオフィス回帰が進んでいます。
一方、テレワークが使えなくなることで家事や育児などとの両立が難しく、「在宅勤務ができないならリモートで働ける会社へ転職しよう」と考えるケースがあります。
多様な働き方に対応しようと企業も努力をしていますが、より自分らしい働き方を求めて転職を検討するケースがあるようです。
キャリアに対する価値観の変化
「パラレルワーカー」「スラッシュキャリア」といった考え方が普及し、企業への帰属意識が薄れつつあります。
「ひとつの企業に留まりキャリアを積む」スタイルから「自分のキャリアを開発し、スキルアップを目指して、労働環境を変えていくスタイル」も多くなりました。
この場合、企業側が従業員のスキルアップやキャリア形成を重視した対応をとることが有効となります。
しかし、多様なニーズを汲み取ろうとしない、対策が十分でないといった場合は連鎖退職につながってしまいます。
連鎖退職が企業におよぼす影響
連鎖退職が企業におよぼす影響には以下のようなものがあります。
- 従業員の不満が増大する
- 生産性の低下
- 経営状況の悪化
- 企業イメージの悪化
- 採用・育成コストが嵩む
それぞれ、下記で詳しく解説します。
従業員の不満が増大する
退職した従業員の業務を周りの従業員が負担するため、一人当たりの業務量が増加します。
また、ほとんどの場合、業務負担が増えても待遇は変わりません。
このような状態が続けば、従業員が不満や不安を感じやすくなり、モチベーションが下がり、組織全体の生産性が低下します。
生産性の低下
退職した従業員の業務をほかの従業員が負担すると、一人当たりの業務量が増えるため、非効率になったり、進捗が遅れたりしてしまい、生産性が低下します。
また、一度に人がいなくなると、これまで蓄積したノウハウが引き継がれなくなり、生産性が低下します。
引継ぎが不十分な場合、残った従業員が不慣れな業務を担当するため、商品やサービスの質まで低下する恐れがあります。
経営状況の悪化
業務の生産性が悪くなると、以前と同様の数値目標を達成できなくなる恐れがあります。
その結果、売上や利益が低下し、経営状況が悪くなります。
経営状況の改善ができない状態が続けば、資金繰りも厳しくなり、事業活動の継続が危うくなります。
企業イメージの悪化
連鎖退職は企業イメージも低下させます。
元従業員が転職先で前職の労働環境の悪さに触れたり、同じ企業から立て続けに転職が続いたりすると、「ブラック企業なのではないか」「経営状態が悪いのではないか」なとど思われる恐れがあります。
特に地域密着型の中小企業の場合、「人が定着しない」「離職率が高い」という印象は事業活動にダメージを与える可能性があります。
採用・育成コストが嵩む
企業イメージが悪化すると優秀な人材が集まりにくくなります。
近年、自分らしい働き方やスキルアップが目指せる職場が注目されています。
そのため、ブラックな印象を持たれてしまうと優秀な人材が集まりません。
優秀な人材が集まらず、採用活動が長引けばそれだけコストがかかります。
常に募集をかけていると「離職率が高い会社ではないか」と思われ、ますます人が集まらなくなります。
最近では退職者が元職場について書き込む口コミサイトが普及しています。
元従業員が悪い評判を書き込めば、企業イメージが悪くなり、採用活動が難航してしまいます。
連鎖退職の防止策
連鎖退職の防止策としては以下のようなものがあります。
- 退職原因を分析する
- 労働条件・労働環境の改善
- 経営層の意識改革
- 適材適所の人員配置
- 新入社員の育成・定着化
- 社内の風通しを改善し、コミュニケーションを活性化させる
- 従業員エンゲージメントを定期的に確認する
- バックグラウンドチェックやリファレンスチェックの導入
それぞれ、下記で詳しく解説します。
退職原因を分析する
まずは従業員が退職する理由を明確にし、分析することが重要です。
自社の課題を間違って認識すれば、何をやっても改善しません。
退職者一人ひとりに対して面談やアンケートを行い、共通の退職理由がないか分析します。
なお、退職者が言及する退職理由は表向きの理由である可能性もあります。
例えば、「スキルアップしたいから」と言っていても、実際は別の理由で退職するケースもあります。
実際の退職理由としては以下のような例があります。
- 待遇に不満がある
- 会社の経営方針が曖昧
- 人間関係に問題がある
- ワークライフバランスに問題がある など
「なぜ退職するのか」と聞いても表向きの理由しか答えない可能性があります。
そのため、業務遂行において問題がなかったか、コミュニケーションの取り方やチームワークで困りごとはなかったかなど、深掘りして聞くことが重要です。
アンケートを行う際は匿名性にし、自由記入欄を設けること良いでしょう。
労働条件・労働環境の改善
従業員のヒアリングを基に労働条件や労働環境の改善を行います。
具体的には以下のような項目をチェックし、問題がないか確認、改善しましょう。
- 労働時間、労働日数
- 給与、手当、待遇
- 各人員の基本業務の内容、負荷、納期、精神的ストレス
- 人事評価の公平性、透明性
- 職場の人間関係
- キャリア形成、キャリアサポート
- ワークライフバランス
問題点を抽出したら、改善策を考えます。
例えば、ワークライフバランスに課題がある場合は以下のような改善策が挙げられます。
- 長時間労働の是正
- 在宅勤務やフレックスタイムなど多様な働き方の導入
- 有給休暇の取得推進 など
経営層の意識改革
連鎖退職を防ぐためには経営層の意識改革が不可欠です。
経営層が連鎖退職に危機感を抱いていない、連鎖退職による影響まで考えがいたっていないというケースも少なくありません。
顧客が離れていったり、事業活動が進まなくなったりして初めて経営層が事の重大さに気づくこともあります。
また、経営層やマネージャー層のマネジメントが不適切であることが連鎖退職の原因であるケースもあります。
しかし、経営層やマネージャー層に自覚がない場合、ハラスメントや不適切なマネジメントが続いてしまうことになります。
企業におけるマネジメントとは組織のミッション達成だけでなく、従業員の育成も含まれます。
経営活動を継続するためには、労務管理やリスクマネジメント、チームビルディングといった現代社会の労働環境に沿ったマネジメントを行う必要があります。
経営層がマネジメントスキルを学ぶことで、自身のマネジメントを振り返ることにつながりますし、連鎖退職の防止にもつながります。
適材適所の人員配置
適材適所の人材配置も連鎖退職防止策として効果的です。
従業員の適性やスキルにあった業務や目標を設定し、適切な人材配置を実施すれば、従業員のモチベーションが上がりやすくなります。
従業員一人ひとりのモチベーションが保たれれば、他の従業員の退職をきっかけとした退職は防ぎやすくなります。
特に、エース社員などのキーマンの育成に成功し、エンゲージメントを高めることができれば、周囲の定着率も上がりやすくなるでしょう。
新入社員の育成・定着化
連鎖退職の防止策は既存社員のエンゲージメント向上や経営層の意識改革だけではありません。
新入社員の育成においても、メンター制度の導入や研修、こまめなコミュニケーションといったオンボーディングの強化も大切です。
「この会社にいれば成長できる」「キャリアアップできる」と思わせられれば定着率向上につながります。
人材育成に力を入れることで、従業員のエンゲージメントレベルが上がれば、連鎖退職が起きにくくなるでしょう。
社内の風通しを改善し、コミュニケーションを活性化させる
社内の風通しを改善し、コミュニケーションを活性化させることも有効です。
社内のコミュニケーションが活発であれば、退職を考えている従業員に気づくことができ、速やかに対策をとることができます。
また、コミュニケーションが活発であれば、従業員が互いに不満や困りごとを打ち明けやすくなり、ストレスを溜めにくくなります。
具体的な施策としては以下のようなものがあります。
- 上司との定期的な面談
- コミュニケーションに関わる研修の実施
- コミュニケーションの問題点についてアンケート調査を実施する
- 社内懇親会 など
従業員エンゲージメントを定期的に確認する
従業員のエンゲージメントを定期的にチェックすることも重要です。
具体的には以下のような方法があります。
- 定期的に従業員に個別でヒアリングを行う
- アンケートを実施する
定期的にチェックすることで従業員のモチベーションの変化に気づくことができ、速やかに対策、改善を行うことができます。
バックグラウンドチェックやリファレンスチェックの導入
連鎖退職の原因のひとつに採用のミスマッチがあります。
採用前にミスマッチを防ぎ、定着する可能性が高い人材を採用することも重要です。
採用プロセスのなかにバックグラウンドチェックやリファレンスチェックなどの客観的評価を取り入れることで採用精度が向上し、ミスマッチ防止につながります。
なお、バックグラウンドチェックとリファレンスチェックには以下の違いがあります。
- バックグラウンドチェック:候補者の主張する経歴や提出書類が正確なものかを調査する
- リファレンスチェック:候補者の前職の勤務先に対してヒアリングを行い、候補者の勤務態度や人柄を調査する
従業員のエンゲージメント向上、定着率を高めるためにも、採用前からの一貫した体制構築が重要です。
採用数でのリカバリーは逆効果
連鎖退職対策として、採用数を増やしてリカバリーすることを考える方もいるかもしれません。
これは退職した従業員の数だけ採用して穴埋めしようという考え方です。
しかし、連鎖退職が起こっている職場は人手不足の状態が続いており、引継ぎも不十分な傾向があります。
当然、オンボーディングが不十分な状態であり、新入社員は慣れない業務に嫌気がさして、すぐ辞めてしまうという悪循環に陥る恐れがあります。
コスト面においても、従業員の退職のたびに採用活動を行っていると、人件費や広告費などが嵩んでしまいます。
取引先から見ても、頻繁に担当者が変わる企業に良い印象は持ちません。
連鎖退職を採用数でリカバリーしようとするではなく、採用プロセスや内部改善に目を向けましょう。
まとめ
連鎖退職は労働環境・労働条件への不満やエース社員の退職など様々な原因によって引き起こされます。
いずれの場合も生産性の低下や経営状況の悪化など企業に与える損失は大きくなります。
連鎖退職を防止するためにも、退職原因を分析し、エンゲージメントや定着率の向上を図りましょう。
定着率を上げるためには、採用ミスマッチを防ぐことも重要です。
採用プロセスにバックグラウンドチェックやリファレンスチェックを導入し、採用前から一貫した体制を構築することをおすすめします。