ゆでガエル理論を乗り越えろ!採用担当が知るべき組織の兆候と予防策
2025.11.26
ビジネスや組織論で用いられることの多い「ゆでガエル理論」。
危機的状況が迫っているにも関わらず、変化が緩やかなため、気づくことができず、手遅れになってしまう状況をいいます。
この記事では、ゆでガエル理論の例や原因、ゆでガエル状態に陥らないための予防策について解説します。
ゆでガエル理論とは
ゆでガエル理論(Boiled Frog Syndrome)とは、「カエルを熱湯に入れるとすぐに飛び出すが、水からゆっくりと温度を上げていくと、水温の上昇に気づかずに茹でられて死んでしまう」という話から生まれた比喩的な教訓です。
現実的・科学的に考えれば、カエルは熱湯になる前に飛び出してしまいます。
しかし、人間は変化より現状維持を好むため、現状維持を「ぬるま湯」に置き換えてみると、人間の傾向を見事に表しているといえます。
ビジネスや組織においては、「緩やかで徐々に進行する環境や市場の変化や危機に対して、その進行に気づかず、あるいは対応を先送りにしてしまい、最終的に手遅れになってしまう現象」を指します。
ゆでガエル理論を寓話として最初に用いたのは1950~70年代に活躍したアメリカの思想家であり、文化人類学者の精神医学者のグレゴリー・ベイトソンといわれています。
日本では、1998年の組織学の教科書と呼ばれる「組織論」(桑田耕太郎、田尾雅夫著)のなかで紹介され、広まったとされています。
人事・採用担当の方は、従業員や組織全体がゆでガエル状態に陥ることを防ぐ役割を担っているとも言えます。
組織の活力を維持し、時代の変化に対応するためにも、ゆでガエル理論について深く理解しておく必要があります。
なお、ゆでガエル理論はゆでガエル現象、ゆでガエルの法則などと呼ばれることもあります。
ゆでガエル世代とは
ゆでガエル世代という言葉は、特定の世代全体を指す社会的な定義として広く使われているわけではありません。
しかし、文脈によっては、バブル崩壊後の長期的な経済停滞のなかで社会人になり、大きな変化や危機を肌で感じることなく安定した環境に慣れ親しんでしまった世代を指して使われることがあります。
一方、バブル期に就職し、高度経済成長の恩恵を受けた1957~1966年生まれの世代を指すこともあります。
また、環境変化への危機感が薄く、これまでのやり方や成功体験に固執しがちな層を、年齢を問わずゆでガエル世代と表現することもあります。
採用現場においては、変化を恐れず、常に学習意欲を持ち続ける人材を見極めることが重要になります。
ビジネスにおけるゆでガエル理論の例

組織がゆでガエル状態に陥っている典型的な例をご紹介します。
成功体験から抜け出せず、従来通りの経営を続けている
大きな成功や実績が、かえって変化への対応を鈍らせる最大の要因となることがあります。
過去の栄光や成功体験に固執し、変化することのリスクを恐れ、従来通りの経営を続けてしまいます。
これにより、市場や顧客ニーズの小さな変化を見過ごしてしまうのです。
市況の変化を無視し従来のやり方に固執する
デジタル化の波や消費者のニーズ、競合他社の新しい商品やサービスなど、市況は大きく変化しています。
それにもかかわらず、「うちは大丈夫」「この技術が取って代わられることはない」などと根拠なく現状維持を続けることがあります。
自社の状況を客観視せず、ビジネスモデルの刷新や新商品の開発、既存品の改良などを怠ることで事業が衰退してしまうことがあります。
組織の変化に気づけず、経営が悪化する
市況や顧客、競合他社などの外部環境だけでなく、自社の変化にも目を配らなければなりません。
例えば、以下のような異変です。
- 優秀な人材の流出
- 生産性や業績の緩やかな低下
- 従業員のモチベーション低下 など
これらのような小さな異変に気づかずにいると、後になって手遅れになることがあります。
また、「一時的なものだろう」などと楽観的に捉え、本質的な問題解決を先送りにした結果、生産性が低下し、経営状況が悪化することがあります。
インプットを怠り、内部から改革を起こせなくなっている
新しい知識や技術、異業種の成功事例など、外部からのインプットを継続的に行わないと、成長が止まります。成長が止まると、相対的に後退してしまいます。
この状態が続くと、組織の視点が内向きになり、自発的にイノベーションを起こす力が衰え、衰退してしまいます。
問題を先送りにしてしまい、気づいたら手遅れになっている
赤字部門の放置、古くなったシステムの刷新の先延ばしなど、解決しなければならない問題から目を背けた結果、取り返しのつかない事態に陥ることもあります。
これらの問題を解決するにはコストもパワーも必要です。
しかし、目の前の小さな痛みを避けるために、重要な決断を先送りした結果、取り返しのつかない状況に陥ってしまうのです。
ゆでガエル現象に陥る原因

企業や従業員がゆでガエル状態に陥ってしまう理由には大きく次の5つがあります。
- 安定志向と変化への恐れ
- 過去の栄光への固執
- 社内コミュニケーションの不足による危機感の欠如
- 周りの空気を読みすぎてしまう
- ネガティブ思考に陥っている
それぞれについて下記で解説します。
安定志向と変化への恐れ
元来人間は「変わりたくない」と考える性質を持っています。
安定を求め、現状の心地よさを選択した結果、将来起こりうるリスクや変化への対応意欲を鈍らせてしまうのです。
過去の栄光への固執
過去の成功体験が、新しい挑戦を阻む心理的なバリアとなることがあります。
「今までこのやり方で成功したのだから今回もうまくいく」と信じ込み、挑戦や変化へのリスクをとることができないのです。
社内コミュニケーションの不足による危機感の欠如
社内コミュニケーションが不足すると、従業員はそれぞれの部署内に閉じこもってしまいます。
こうなってしまうと、組織全体や他部署に対する興味を持てず、情報が停滞してしまいます。
経営層や営業など、組織の一部がすでに危機感を持っていても、それが現場や他部署に共有されないため、「自分たちの仕事は安泰だ」と錯覚してしまうのです。
周りの空気を読みすぎてしまう
ゆでガエル状態の組織は現場からの意見や改善提案が上がりにくい傾向があります。
これは、周りの空気を読み過ぎてしまうことが原因として考えられます。
「異論を唱えると職場の和を乱す」「波風を立てないほうがいい」と考え、課題や問題点に気づいても発言を控えてしまうのです。
現場からの意見が上がらなくなることで、現状を把握するのが難しくなってしまうのです。
ネガティブ思考に陥っている
「どうせ変わらない」「言っても無駄だ」といった諦めやネガティブ思考は、変化することへの抵抗を生み出します。
ネガティブ思考に陥ってしまうと、客観的に物事を捉えたり、現状を正確に把握したりすることが難しくなってしまいます。
現状を客観的に把握できない状態が続いた結果、気づいたときには取り返しのつかない状態に陥っていることがあります。
ゆでガエル状態に陥らないための予防策

ゆでガエル状態は陥る前に予防することが大切です。
企業がいますぐ取り組みたい予防策についてご紹介します。
客観的に現状を把握する
ビジネス環境は常に変化しています。
現状に満足することなく、常に疑問を抱き、客観的に現状を把握することが大切です。
具体的には、定期的に市場調査や競合分析を行い、顧客ニーズの変化やビジネスモデルの変化などをキャッチアップし、自社にどのような影響があるかを分析します。
市場調査・競合分析のほか、客観的に現状を把握する手法には以下のようなものがあります。
- 新規サービス・技術の勉強会
- 顧客の声の収集
- 外部の専門家に依頼し、客観的に自社の状況を見てもらう など
このほか、従業員サーベイや満足度調査などを用いて、自社の内面について把握することも大切です。
外部・内部の両面から客観的に把握し、変化の兆候を見逃さないよう、組織を上げて取り組むことが大切です。
危機意識の共有
自社の現状を客観的に把握できたら、「変わらなければ生き残ることができない」という危機意識を組織全体で共有する必要があります。
経営層など一部だけが危機感を持っていても、組織は変わりません。
現状を大きく変えるためには従業員一人ひとりが危機感を持つことが大切です。
情報を組織全体に共有する方法としては定期的な会議や研修、社内報などがあります。
また、新たなスキルを持った人材を採用したり、講師を招いたりするのも従業員の刺激になります。
ビジョンの浸透
組織全体にビジョンを浸透させておくことはゆでガエル状態を避けるために非常に有効です。
ビジョンとは「何のために自社が存在するのか」「〇年後にどこを目指すのか」といった、企業の存在意義や方向性を示すものです。
ビジョンを浸透させるためには、その内容が明確であり、従業員が共感しやすいものでなければなりません。
こうすることで、従業員一人ひとりがビジョンの実現に向けて挑戦する意義を見出せるようになります。
従業員の自律性を高める
組織を大きく変えるためには、温度上昇に気づき、湯から飛び出せる従業員を育てることが必要です。
自ら飛び出せるようになるためには、従業員の自律性を高め、指示待ちではなく、自ら課題を見つけ、解決策を提案できる人材を育成することが大切です。
具体的には、以下のような方法があります。
- 従業員に意思決定や裁量を与え、潜在能力を引き出す
- 従業員の成長のための研修制度を導入する など
心理的安全性の高い企業風土の醸成
心理的安全性の高い企業風土を醸成することも大切です。
従業員からの意見や提言、また失敗の報告について、非難されることなく、受け入れられやすい環境を作り、「気づき」を自由に発言できる組織作りが大切です。
従業員一人ひとりがキャリアプランや目標を持つ
従業員一人ひとりが将来のキャリアプランや目標を持ち、挑戦し続けることも大切です。
キャリアプランや目標が明確であれば、現状に甘んじることなく、成長意欲が生まれやすくなります。
目標設定の際も、現状維持ではなく、一歩先のストレッチゴールを設定することが大切です。
企業は従業員のキャリアプランを実現できるよう支援し、成長を続けられる環境を整えることが大切です。
公平で正当な評価制度の構築
従業員の自立性を高めるためには、公平で正当な評価制度の構築も大切です。
年功序列ではなく、変化への対応や新しい挑戦を正当に評価し、失敗を許容できる風土作りや人事制度を構築します。
また、従業員が設定した目標やキャリアプランについても、企業側が適切に評価・フィードバックできる仕組み作りが大切です。
ゆでガエル状態に陥りやすい人の特徴

ここまでゆでガエル状態に陥らないための予防策について解説しました。
ここからは、ゆでガエル状態に陥りやすい人の特徴について解説します。
採用段階でゆでガエル状態に陥りやすい人材を見極めておくことは、企業防衛の意味でも非常に重要です。
ゆでガエル状態に陥りやすい人には次のような特徴があります。
- 目標やビジョンがない
- 変化を極端に嫌う
- 自分軸がない
それぞれの特徴について下記で解説します。
目標やビジョンがない
自分のキャリアに明確なビジョンや目標がないというのはゆでガエル状態に陥りやすい特徴のひとつです。
目標やビジョンがなければ、成長意欲がわきにくく、現状維持に満足しがちです。
こうなると周りの変化に気づかず、ただ言われたことだけをこなすだけになってしまいます。
変化を極端に嫌う
ゆでガエル状態に陥りやすい人は変化を極端に嫌います。
そもそも人間は現状から抜け出すことに抵抗を感じやすいものです。
しかし、それが極端に強いとゆでガエル状態に陥る可能性が高くなります。
具体的には以下のような特徴があります。
- 過去のやり方や慣習に固執している
- 新しいツールや方法論の導入に抵抗感を示す など
自分軸がない
他人の意見に流されやすく、自らの意思や目的意識が希薄な人もゆでガエル状態に陥りやすいといえます。
「自分はどうしたいのか」「どうなりたいか」という軸がないため、主体的に行動できず、周りの雰囲気に合わせてしまうのです。
そのため、問題に気づいたとしても、「周りが言わないなら何も言わないほうがいい」「波風を立てたくないから周りに合わせる」という考えにいたってしまいます。
このような人材が増えてしまうと、組織が変わるきっかけを失ってしまいます。
ゆでガエル状態の予防策は採用段階から
人間性は後から変えることが難しいものです。
ゆでガエル状態に陥ることを防ぐためには、採用段階でゆでガエル状態に陥りやすい人材を見抜き、変化を恐れず、自律的に動ける人材を採用することです。
面接においては、候補者の仕事での取り組み方や考え方を深掘りします。
候補者の考えや取り組み方を深掘りすることで、「困難な事象が起きたときの考え方」「自律性」「挑戦意欲」「変化への耐性」といった、ゆでガエル化を防ぐ重要な特性を見極めます。
もっとも、面接では候補者が自分を良く見せようと振舞うものです。
そもそも、候補者が主張する経歴やスキルが虚偽であれば、その主張も信用に値しません。
このような場合に効果的なのがバックグラウンドチェックやリファレンスチェックです。
バックグラウンドチェックは候補者の主張するスキルや経歴に虚偽がないかを確認するものです。
一方、リファレンスチェックは前職の上司や同僚にヒアリングを行い、業務での候補者の行動特性について客観的な情報を得るものです。
バックグラウンドチェックやリファレンスチェックで情報の信頼度を高め、面接で候補者の考え方や仕事の取り組み方を深掘りすることで、候補者の見極め精度が上がります。
採用段階でゆでガエル状態に陥りやすい人材かどうかを見極め、自社に適した人材を厳選して採用できれば、組織全体がゆでガエル状態に陥ることを防ぎやすくなるでしょう。
まとめ
ゆでガエル理論は、現代のビジネス環境において、すべての企業に潜むリスクです。
今一度、現状を振り返り、組織がゆでガエル状態に陥っていないか確認しましょう。
採用担当の方は、ゆでガエル状態に陥りやすい人材を見抜き、変化への適応力と高い自律性を持ち、自社にマッチした人材を獲得することが重要になります。
もっとも、書類と面接といった従来の採用手法だけでは、候補者の主張する経歴やスキルに虚偽があった際に見抜くことが困難になります。
バックグラウンドチェックやリファレンスチェックを併用し、採用段階で人材を見極めておくことをおすすめします。
採用する人材を適切に見極めることで、組織の水温を適切に保ちつつ、環境変化にスムーズに対応でき、組織の成長につなげていくことができます。
