アトラクト採用とは?注目される理由と人事担当者が知るべき戦略
2025.10.10

人材獲得競争が激化する現代において、採用のあり方は大きく変わりつつあります。
ただ求人情報を出すだけでは、優秀な人材との出会いは難しくなっているのが現状です。
このような状況のなか、優秀人材を獲得するために注目されているのが、アトラクト採用です。
アトラクト採用は採用活動において、自社の魅力付けを行い、候補者の心を惹きつけるための取り組みです。
この記事では、アトラクト採用の基本から、なぜ今アトラクト採用が注目されているのか、そして具体的な実践方法まで、人事担当者の皆様が明日から使える戦略を徹底的に解説します。
アトラクト採用とは?
アトラクト(attract)とは、「(興味を)引く、魅了する」という意味を持つ英語です。
アトラクト採用とは、企業が一方的に選考するだけでなく、求職者を惹きつけ(アトラクト)、自社への入社意欲を高めることを目的とした採用手法です。
従来の採用は、書類選考や面接を通して「この人が自社に合うか」を見極めることに主眼が置かれていました。
アトラクト採用は、各選考プロセスにて、求職者に対して企業の魅力や価値観を積極的に伝え、「この会社に入りたい」と思ってもらえるよう働きかけ、双方のコミュニケーションを深めていくことを重視する手法です。
なぜ今、アトラクト採用が注目されるのか?
アトラクト採用が注目される主な理由には次の3つがあります。
- 採用市場の競争激化
- 求職者の情報収集の変化
- ミスマッチの防止
それぞれについて下記で解説します。
採用市場の競争激化
近年、少子高齢化に伴う労働人口の減少や、IT・DX化の進展により、日本の採用市場では人材獲得競争が激化しています。
特に優秀な人材や専門性の高いスキルを持つ候補者は複数の企業から内定をもらうことも珍しくなくなりました。
このような状況から、企業は「選ぶ側」から「選ばれる側」へ変化しており、候補者に選ばれるための魅力を高める必要に迫られているのです。
求職者の情報収集の変化
SNSや口コミサイトの普及により、求職者は企業が発信する情報だけでなく、従業員の生の声や企業の評判を容易に調べられるようになりました。
どれだけ企業側が魅力的な内容を発信していても、従業員の声との間に乖離があれば、求職者を惹きつけるのは難しくなります。
企業は良い部分だけでなく、悪い部分も含め、透明性のある情報発信を行い、求職者からの信頼を獲得することが不可欠です。
ミスマッチの防止
早期離職の原因のひとつに採用ミスマッチがあります。
アトラクト採用で企業の良い面だけでなく、ありのままの姿を伝えることで、入社後のギャップを最小限に抑える効果があります。
これにより、早期離職を防ぎ、企業と従業員双方にとって満足度の高い関係性を築くことにつながります。
採用シーン別のアトラクトの方法

ここからは、採用活動のシーン別に候補者を惹きつけるための具体的なアプローチを紹介します。
採用広報・募集
まずは求職者に自社のことを知ってもらわなければ始まりません。
現代の採用活動ではSNSやオンラインの活用が大きな影響力を持っています。
そのため、このシーンでのアトラクト目的は自社の認知度を高め、関心を持ってもらうことになります。
具体的な方法には以下のようなものがあります。
具体的な方法 | 内容 |
---|---|
SNS・ブログ | 企業の文化や働く従業員の姿を伝えるコンテンツを発信し、親近感を持ってもらう。 |
オウンドメディア | 企業の事業内容や従業員インタビュー記事を掲載し、事業の社会的意義や仕事のやりがいを伝える。 |
求人票・採用サイトの作成 | 応募要件や業務だけでなく、企業文化や同じ仕事で働く従業員の声や身に着くスキル、キャリアプランなどを伝える |
なお、SNSやブログを活用する際は、自社のターゲット層がどのような媒体を利用しているのかを分析し、最適な媒体を用いましょう。
自社の雰囲気や業務内容が伝わりやすい媒体を選ぶことも大切です。
インターンシップ・会社説明会
インターンシップ・会社説明会は、多くの候補者に自社の魅力を一度に伝える絶好の機会です。
候補者側も、実際の従業員と接点を作れるため、相互理解を深める場として有効です。
具体的な仕事内容や職場環境、企業理念、現場の従業員の生の声を伝えることで自社の理解が深まりやすくなります。
インターンシップ・会社説明会では、参加者に自社への興味を強めてもらうことを意識しましょう。
具体的な方法には以下のようなものがあります。
具体的な方法 | 内容 |
---|---|
リアルな業務体験 | 実際の業務を体験してもらい、実際に働くイメージを体感してもらう。 |
現場従業員との交流 | 参加者と従業員が自由に交流できる座談会を設け、現場のリアルな声を聞いてもらう。 |
カジュアル面談

選考前のカジュアル面談は、相互理解が深まり、自社の魅力を伝える絶好の機会です。
ここでは、選考と切り離し、企業と求職者の相互理解を意識し、企業が求職者のキャリア観や志向性を理解することに注力することが大切です。
また、候補者のニーズや現状に合わせて自社の魅力を訴求することも重要です。
例えば、以下のように訴求すると良いでしょう。
候補者の現状 | 訴求ポイント |
---|---|
転職を決めている人 | その候補者の転職の軸に合った魅力 |
転職するか迷っている人 | 職場の雰囲気や労働環境など |
面接・選考
面接や選考では「候補者を評価する」だけでなく、企業の魅力を伝えることも意識しましょう。
面接や選考にも現場の従業員や上司が対応し、リアルな現場の声を伝えることができれば、アトラクトにつながります。
面接のなかで候補者から質問があった際は、不安を解消するよう丁寧に説明しましょう。
複数回面接がある場合は、それぞれ別の面接官に対応させることで、自社の魅力を多角的にアプローチできます。
採用クロージングにおけるオファー面談(内定後)
内定通知後の採用クロージングにおけるオファー面談は、労働条件などのすり合わせや入社する意思を固めてもらう場です。
このとき、以下のポイントを押さえ、丁寧なコミュニケーションと入社の不安解消を測ることが大切です。
- 入社後の具体的なイメージ: 業務内容だけでなく、配属予定部署のメンバーや働く環境を詳しく説明する。
- 条件のすり合わせ: 給与や待遇面だけでなく、企業が候補者に期待する役割を丁寧に伝える。
内定後フォロー
内定承諾から入社までの期間は、候補者に入社の迷いが生じやすい時期でもあります。
この期間は不安の解消や入社意欲を継続してもらうことを意識し、継続的にコミュニケーションをとることが大切です。
定期的な連絡のほか、内定者交流会を開催し、同期となる内定者同士や、先輩従業員と交流する機会を提供するのも有効です。
従業員懇親会
従業員との懇親会は打ち解けやすく、本音を引き出したり、魅力を伝えたりする良い機会です。
業務から離れ、人として信頼関係を築くことで「この人たちと働きたい」と思ってもらいやすくなります。
また、リラックスした雰囲気で交わされる会話から、候補者のキャリアプランや将来像などを知ることもできます。
アトラクト採用を効果的に行うための事前準備

アトラクト採用を効果的に行うためには事前準備が鍵を握ります。
やっておくべき事前準備は次のとおりです。
- 採用ターゲットを設定してニーズを把握する
- 自社の魅力やアピールポイントを洗い出す
- 競合企業と自社の違いを整理する
以下で詳しく解説します。
採用ターゲットを設定してニーズを把握する
まず、「どんな人に来てほしいか」という人物像を具体的に定義し、そのターゲット層が何を求めているのか、どんな情報に惹かれるのかを徹底的に分析します。
求める人物像を定めるときは、以下の項目にわけ、言語化して定めましょう。
- 採用ペルソナ(年齢、スキル、経験、価値観)
- 必須要件
- 歓迎要件
- NG要件
- 任せたい業務・ポジション
- 提供できる待遇・労働環境
人物像を定義したら、ターゲット人材のニーズを徹底的に分析します。
ターゲット人材が応募してきたら、転職や仕事で重視するポイントをヒアリングします。
ターゲット人材にヒアリングする項目には以下のようなものがあります。
- 業務内容
- やりがい
- 給与・待遇
- 働き方
- 福利厚生
- 成長機会
- 企業文化
ヒアリング後はニーズの優先順位を把握します。
何を優先事項とするかによって、訴求する内容を調整します。
自社の魅力やアピールポイントを洗い出す
次に自社の強み(製品・サービス、技術力、企業文化、福利厚生など)をリストアップし、客観的に魅力を整理します。
自社の魅力やアピールポイントを洗い出す際は次の4つの軸にわけて見ていくと、抜け漏れがなく、効果的です。
Philosophy(理念・目的)「どのような世界を目指しているか」 | ・目指す・MVV(ミッション、ビジョン、バリュー) ・創業背景 ・企業の沿革 ・企業名の由来 ・財務基盤 など |
Profession(仕事・事業)「どのような活動をしているのか」 | ・事業内容・市場規模 ・業務内容 ・ビジネスモデル ・今後の戦略や展望 ・競合優位性 ・自社のビジネスを通じて、顧客や社会にどのように貢献できるのか |
People(人材・風土・文化)「どんな人と働けるか」 | ・経営陣や従業員の紹介 メンバーの経歴 ・企業文化・カルチャー・組織風土 ・組織図 など |
Privilege(特権・待遇・働き方)「どのような恩恵が得られるのか」 | ・職場環境・勤務地 ・働き方 ・評価制度・報酬体系 ・研修・教育制度 ・福利厚生 など |
以上の点をわかりやすく、候補者に刺さる言葉で伝えられるように整理しておきましょう。
競合企業と自社の違いを整理する
競合企業と自社の違いを整理し、自社の強みや魅力を伝えられるようにすることも大切です。
そのためには、自社の競合がどこになるのかを把握する必要があります。
面談や選考を通して、候補者が自社と並行してどこの企業を検討しているかを把握すると良いでしょう。
競合を把握したら、競合企業と自社の違いを整理していきます。
例えば、競合他社はリモートワークを導入しているにも関わらず、自社リモートワークを導入していない場合を想定します。
リモートワークができる労働環境であり、ポジション的にも業務的にもリモートワーク導入に支障がないのであれば、リモートワークの導入を検討するのもひとつの方法です。
また、企業によっては福利厚生として独自の休暇制度や確定拠出年金精度などを設定している企業もあります。
確定拠出年金の導入は中小企業では難しい部分がありますが、最近はiDeCo+を導入することで福利厚生の充実を図る方法もあります。
アトラクト採用を成功させるための5つのステップ

アトラクト採用を成功させるためのステップは以下のとおりです。
- 自社の魅力を棚卸し、言語化する
- 自社の魅力を目の前の候補者に刺さる言い方に最適化する
- 魅力を伝えるためのコンテンツの作成・発信・設計
- フェーズ毎に悪楽と施策を設計する
- 定期的な振り返りと改善の仕組みづくり
順を追って解説します。
自社の魅力を棚卸し、言語化する
事前準備で自社の魅力を客観的に洗い出したら、具体的な例を使って、誰にでも分かりやすい言葉で表現します。
例えば、「アットホームな雰囲気」といった抽象的な表現ではなく、「月に一度、チームでランチに行く制度がある」などのように具体的に言語化します。
自社の魅力を目の前の候補者に刺さる言い方に最適化する
候補者のタイプによって自社の魅力の響き方は異なります。
例えば、自社の魅力が成果主義であり、従業員の裁量が大きく、残業も自分で調整できる環境であるとします。
この場合、魅力を伝える際は、候補者のタイプによって以下のような言い換えをすると良いでしょう。
- キャリアアップ志向の候補者→入社3年目でチームリーダーになった従業員がいる
- ワークライフバランスを重視する候補者→残業はあるが、自分で調整してプライベートを確保できる
魅力を伝えるためのコンテンツの作成・発信・設計
自社の魅力を言語化できたら、様々なメディア(採用サイト、SNS、ブログ、会社説明会資料など)で発信します。
候補者の興味関心に合わせて、適切なコンテンツを適切な媒体を使い、適切なタイミングで、適切な言い回しで届けられるように設計します。
フェーズ毎にアトラクト施策を設計する
採用の各フェーズの目的に合わせ、候補者の心理状態を考慮したうえでアトラクト施策を設計します。
カジュアル面談を例に説明します。
カジュアル面談は選考ではなく、あくまで相互理解を深める場です。
候補者が緊張している場合は、まずはアイスブレイクで緊張をほぐします。
そのうえで、候補者の現状や疑問を引き出し、候補者に刺さる言葉で自社の雰囲気や魅力を伝えます。
一方、最終面接の場合、入社後の業務内容やキャリアパスを具体的に説明します。
このように、各フェーズの目的と候補者の状況に合わせた情報を提供します。
定期的な振り返りと改善の仕組みづくり
採用活動の各段階でアトラクト施策の効果を定期的に測定し、課題があれば改善のサイクルを回します。
改善する際は応募者の声や、内定辞退の理由などを分析し、次の施策に活かす仕組みを構築します。
長期的な視点でアトラクト施策を改善し続けることが成功の鍵です。
アトラクト採用を成功に導くポイント

アトラクト採用を成功に導くためのポイントをご紹介します。
なるべく早い段階からアプローチする
候補者との接点は早ければ早いほど自社の魅力を伝えやすくなります。
求職者が「転職を考えてみようかな」と漠然と考え始めた段階で接点を持つことで、競合他社に先んじてアプローチできます。
具体的にはカジュアル面談やインターンシップなどを活用し、選考前にターゲット人材と接点を持つようにします。
また、SNSやブログ、セミナーなどのイベントを活用し、まだ転職を考えていない「転職潜在層」にもアプローチすることで、優秀な人材を早期に確保し、将来的な採用につなげることができます。
候補者を惹きつけるウェルカムブックを作成する
自社を知ったばかりの候補者には、自社の魅力が伝わりやすいウェルカムブック(Welcome Book)を作成するのもおすすめです。
ウェルカムブックとは、企業のビジョンや事業内容、代表・従業員インタビュー、福利厚生などをまとめたもので、「これを見れば自社のすべてがわかる」というものです。
ウェルカムブックは作成していない企業も多いため、競合と比較された際に印象に残りやすく、候補者の入社意欲を高める効果があります。
候補者の印象に残る会社説明会を実施する
会社説明会の内容や進行方法を、候補者の印象に残るように見直すのも効果的です。
一般的な会社説明会といえば、経営方針や業務内容について企業が説明し、紹介動画を流すといった
ものが多いでしょう。
しかし、これでは候補者の印象に残りにくく、魅力が十分に伝わっていない可能性があります。
候補者の印象に残るための施策として具体的な例を下記に挙げます。
- 候補者参加型ワークショップ
- 候補者の印象に残りやすい司会者を選ぶ
- 従業員との交流時間を設ける
- 関係性が切れないよう、会社説明会後のプロセスの詳細を伝えておく
誇張せず、ありのままを伝える
アトラクト採用は候補者をアトラクトする採用手法です。
このとき、誇張せず、ありのままの情報を伝えることが重要です。
候補者に魅力を伝えたいがあまり、自社の良い面だけを実態以上に伝えてしまうと、入社後のギャップが大きくなり、早期離職につながります。
自社の良い面だけでなく、課題や苦労している点なども正直に伝えることで、候補者からの信頼を得やすくなります。
競合と劣る点があれば、その点についても正直に伝えましょう。
このとき、どのように改善していこうとしているのかまで伝えると、マイナスイメージを和らげやすくなります。
訴求ポイントを候補者別に最適化する
候補者によって企業に求める点やニーズは異なります。
候補者の興味や関心に合わせて、伝えるべき情報や伝え方をカスタマイズすることで、より効果的に魅力を伝えやすくなります。
例えば、「残業や業務負荷が多くても良いから成長したい」という候補者に対して、残業の少なさやワークライフバランスの訴求するのは逆効果といえます。
このような候補者の場合は若くても責任のあるポジションに就くチャンスが多いことや任せたいプロジェクト、についてアピールしたほうが良いでしょう。
候補者のニーズや企業に求める点については面接やカジュアル面談などで探っていき、最適化していきましょう。
採用担当と現場の協力体制を構築する
アトラクト採用では採用担当と現場の密な協力体制を構築することが不可欠です。
実際の業務内容や仕事の大変さ、労働環境などは、実際に働いている従業員から直接伝えることで説得力が増します。
特にクリエイティブ職などの専門職や技術職は現場の従業員との連携が欠かせません。
現場有業員の協力を得てリアルな情報を提供できれば、候補者の入社後のギャップを減らせます。
適切な人材をアサインする
面談や面接では、候補者の聞きたい情報を持ち、候補者坂見て魅力的な従業員をアサインすると良いでしょう。
そのためにも、それまでのフェーズで知り得た候補者のニーズや情報を採用メンバー間で共有し、どの人材が最適化を選ぶことが大切です。
通常、管理職が面談や面接官を行うことが多いでしょう。
しかし、自分の希望する職場で働く人が魅力的であることのほうが候補者を効果的にアトラクトできます。
できれば、候補者の希望する職種や同じような経歴を持つ人物、セールス力のある人物をアサインできればアトラクトしやすくなるでしょう。
面談を複数回行い、アフターフォローする
面談は一回ではなく、複数回行い、希望に応じてアフターフォローまで行うと良いでしょう。
複数回にわたって対話することや、面談後に丁寧にフォローすることで、候補者との信頼関係を深める効果が期待できます。
また、候補者側も面接時間が短すぎて十分に質問できないことがあります。
アフターフォローをすることで、候補者の疑問や不安を解消することにつながります。
バックグラウンドチェック・リファレンスチェックを行う
どれだけ自社の魅力を候補者に刺さるように届けたとしても、候補者の主張する経歴やスキルが虚偽であれば、ミスマッチが起きてしまいます。
採用ミスマッチが起きてしまうと、早期離職だけでなく、採用コスト・育成コストの増大につながります。
書類や面接などの従来の選考方法に加え、バックグラウンドチェックやリファレンスチェックを併用し、候補者の情報精度を上げることをおすすめします。
まとめ
アトラクト採用について基礎知識から実践方法、成功に導くポイントまで解説しました。
採用市場は今後も厳しさを増していきます。
本記事でご紹介した内容を参考に自社に合ったやり方で戦略を立てていきましょう。
アトラクト採用はミスマッチを防ぐ効果的な採用手法です。
しかし、候補者の主張する経歴やスキルが虚偽であればどうしてもミスマッチが起きてしまいます。
アトラクト採用を効果的に進めるためにも、バックグラウンドチェックやリファレンスチェックを併用し、客観的な視点で人材を見極めることが大切です。